第266話

 絶対に側近たちと結ばれる事がないと分かり、貴族令嬢三人は自分たちを拒絶した側近たちの前から、一言も発する事なく去っていく。その時の貴族令嬢三人は、一切顔色を変える事なく、涙を見せる事なく毅然きぜんとした態度であった。その姿は、上位貴族の家に生まれた令嬢として、一人の女性としてとてもカッコいい姿だった。

 そんなカッコいい姿を見た連合の貴族令嬢たちは、企みが失敗に終わった事に残念そうにしていながらも、戻ってきた貴族令嬢三人の事を誇らしげに迎え入れた。彼女たち貴族令嬢連合は、利害関係の一致によるビジネスライクな関係だと思っていたが、どうやらそれは大きな勘違いだった様だ。


「彼女たち三人は、他の令嬢たちから尊敬され、純粋に心から愛されていたみたいですね」

「侯爵家の生まれという血筋におごる事なく、淑女に相応しくなれる様にと、血の滲むような努力をしてきたんでしょう」

「そして、その姿を他の子たちは見続けてきたんでしょうね」

「同じ上位貴族の令嬢であるのに、ローラとは天と地の差だわ。あの子は、ローラは勉強という自分の嫌いなものを拒絶し続け、貴族令嬢として身に着けるべき事から逃げ続けた」

「マルグリット…………」

「その結果、ローラの周りには本当の友人と呼べる存在が一人としておらず、傲慢で人の気持ちが分からない孤独な姫になった。逆に、彼女たちの周りには心から信頼し合う友人が沢山いて、どんな時でも助け合える固い絆で結ばれている。そして、彼女たちには人の痛みや悲しみ、喜びといったものがよく理解出来ている」


 そう語るマルグリットは、何処か遠くを見つめている様な顔をしている。マルグリットは今、かつてのベルナール公爵家での日々を思い出し、何か心に思っているんだろうな。


「そんな彼女たちならば、夫となる者を力強く支え、共に幸せに暮らしていけるでしょう。その者は非常に幸運だと思います」

「セドリック殿たちは、良き女性との縁をみすみす手放したという事か」

「そういう事です」


 逃した魚は大きいではないが、側近たちは自身のおろかさによって、優秀でデキる女性たちとの縁を断ち切ってしまった様だ。


「この場で、私ローラ・ベルナールが告げるわ。セドリックたちに相応しい相手は、愛の神であるアモル様と協力して徹底的に吟味ぎんみした後に、改めて場をもうけて発表させてもらうわ。――――ただ少なくとも、先程の三人とその友人たちではないとだけ、この場でもって断言するわね」


 ローラ嬢の声高こわだかの演説に、ローラ嬢の派閥の者たちや魔法使い至上主義の者たち、そして側近たちが賛同の拍手を送る。その光景は、ローラ教とも言うべき過激派の集団そのもので、気持ち悪くて寒気がする非常に恐ろしい光景だ。

 もはやこれでは、純粋に舞踏会を楽しむ事は出来ないな。俺と同じ様にイザベラたちも考えた様で、互いに顔を見合わせて頷き合い、友人たちを優先してダンスホールから退出させていった。その際、貴族令嬢連合にも声を掛けて、彼女たちも安全にダンスホールから退避させた。

 そして俺たちが静かに去ったダンスホールには、ローラ・ベルナールという聖女を勝手にしょうする大罪人と、その大罪人をたたえる過激派のみが残った。彼らは醜悪しゅうあくな笑みを顔に浮かべながら、音楽団が流す音楽に合わせて、夜遅くまで勝利のダンスを楽しんだのだった。

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