第199話

 親父や母さんに今回の一連の流れに関しての事を記した手紙を送り、騎士叙任式に間に合わなかったマルグリット嬢たちにも諸々の事情を説明し、学生から社会人となった心機一転の気持ちで翌朝を迎えた。パッチリと自分のベットで目を覚まし、騎士学院の卒業式で着る為に実家から持ってきていた、全身真っ黒の騎士服を身に纏う。そして最後に、イザベラ嬢から授かった公爵家のマントを羽織る。真っ白な上質な生地に、金糸で公爵家の紋章が縫われている、誰がどう見ても最高級であると分かる一品だ。準備を整え終わり、乱れている所がないか何度か確認した後、カノッサ公爵家の屋敷に向かって足を進めていく。


(前世では経験出来なかった社会人というものを、この異世界で体験する事になるとはな。本当に、人生というのは何が起こるか分からないな)


 前世の父親や母親も今の自分の様な気持ちを抱きながら、社会人としての道を歩んだんだろうかと思いながら、王都の街並みを進んでいく。王都で出来た仲の良い人たちは、俺が騎士学院の制服ではなく立派な騎士服を着ている事に興味津々の様で、色々と好奇心の赴くままに質問攻めにされた。そんな人たちの質問をやんわりと流しながら進み、イザベラ嬢の待つ公爵家の屋敷へと到着した。


「おはようございます、ウォルターさん」

「おはようございます、イザベラ嬢」

「イザベラ、ですよ」

「それを言うならイザベラこそ」

「ふふふ、そうでしたね。ウォルター」


 俺とイザベラたちとで十分に話し合いをして、正式に婚約者となったのはイザベラやナタリーの二人だけとはいえ、全員で想い合っているのだから呼び捨てにしようという事になった。マルグリットとも直に婚約を結ぶ事は決まっているし、カトリーヌともローザさんの太鼓判もあって婚約を結ぶ事になっている。クララに関しても現在ご両親に送った手紙の返事待ちだが、イザベラ同様に男っ気がなかった事から、婚約に関しては大喜びするだろうとの事だ。まだ前世の結婚に対する価値観が残っているので、一夫多妻に対するご両親の反応が非常に気になってしまうが、今は目の前の事に集中する為に意識を切り替える。


「それでは行きましょう。ウォルターは私たちの騎士なんですから、馬車には一緒に乗ってくださいね」

「分かってます。それともう一度確認しておきたいんですけど、教室内にまで付いて行っていいんですよね?」

「大丈夫ですよ。騎士なのに、守護する相手の傍にいなくてどうするんですか。基本的に魔法学院の貴族の生徒たちには、将来の側近や取り巻きの人たち、もしくは自身の家の関係での従者が基本ですから、騎士が傍で守護する事はあまりないです。ただ、魔法学院の長い歴史の中で騎士を傍に置いていた生徒もいますから、ウォルターが傍にいても特に問題ないですよ」

「生徒たちの勉学の妨げに……とか言われないですかね」

「ウォルターは気にしなくても大丈夫ですよ。私たちは学生なんですから、授業に集中して勉学に励むのが本分なんですから」

「はい、分かりました」

「では、学院へと向かいましょうか。セバス、お願い」

「畏まりました」


 御者席に座るセバスさんは、何時の様に穏やかにそう答えて、俺とイザベラの乗る馬車を動かしていく。新しい環境の中に身を置くので、少しばかり緊張してしまうな。そんな俺の緊張を見抜いたのか、ゆっくりと魔法学院へと進む馬車の中で、イザベラは楽しく話しかけてくれた。暫くすると緊張が和らいでいき、魔法学院に着く頃には何時も通りの俺に戻る事が出来た。

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