第181話

 ゲオルグ君やクラリスちゃんにフラウちゃん、それから男爵領内の子供たちとの楽しい交流を終えた翌日から、俺たちは肉のダンジョンへと再び戻ってきていた。ただ前回・前々回のダンジョン探索と違うのは、一階層ごとの探索スピードと、今回の探索における到達目標階層だ。前回・前々回の探索においては、それぞれ二十階層ずつ進んでいき、二日程の休養期間を設けていた。だが今回は、ジャック爺とカトリーヌさん、それからイザベラ嬢たちと俺を除く全員の強い希望によって、ダンジョン内での滞在日数及び目標到達階層を大きく上げる事となった。

 魔物との戦闘は必要最小限に留め、最短に近い速度で次の階層へと進んでいき、五十・六十・七十階層の階層主を倒していった。どの階層主も手強い魔物たちであったが、ダンジョン探索に本気となったジャック爺やカトリーヌさんの前には手も足も出る事はなく、広範囲・高威力の魔法の爆撃によって早々に地に倒れ伏した。

 五十階層までは、魔物と化したと言っても外見的な変化は殆どなかった。しかし、五十一階層からは魔物の外見や形状にも変化が出てきた。体毛の色が通常の個体とは違ったり、腕が三本も四本もある個体がいたり、異なる生物同士が混ざり合った合成獣キメラだったりと、魔境でも見かける様な魔物が現れ出したのだ。


「ウォルター、カトリーヌお嬢さん。このダンジョンの魔物の強化形態は、魔境と非常に似ておるの」

「単純な戦闘能力は別として、外見や形状の変化という点においては、確かに魔境の魔物たちと酷似している個体が多いね」

「恐らくですが、ダンジョンの中の環境が魔境と似通っている事から、同じ様な形態で魔物たちが強化されているのだと思います」


 強さはそこまでだが、身体の動かし方や使い方に関しては、魔境の魔物たちとよく似ていた。属性魔法の種類に関してもほぼ同一のものを使い、生物固有の能力に関しても同一だった。強さ以外に違いがあったとすれば、変化した体毛の色の濃さくらいだっただろうか。


「そうなると、深層である八十階層から現れる魔物たちは、仮想魔境の魔物となるわけか」

「いずれ魔境に挑んでもらうイザベラたちにとっては、深層以降の戦いはいい勉強になりますよ」

「それもそうじゃな。これもまた一つの経験かの。お嬢さんたち、ここからは魔物の厄介さが一段階上がってくるじゃろう。魔物の動きをしっかりと観察し、四人一組となって上手く立ち回りながら魔法を放つんじゃ」

「四人一組ですか?」

「深層の魔物ともなると、知能も普通の魔物よりも遥かに高いからの。一人一人バラバラの状態でおったら、確実にそこを一番最初に狙ってくるんじゃ。それが相手の一番嫌がる行為であり、突かれたくない弱点であると判断しての」

「確かに賢者様たち三人に比べると、私たちはかなり格が落ちて見えるでしょうね」

「魔物たちからすると格好の的という事ですね」

「悔しいです」

「今はまだ、深層の魔物は一人一人では厳しいというだけじゃ。じゃがお嬢さんたち四人が力を合わせれば、深層の魔物とも十分やり合えるじゃろう。今回のダンジョン探索で経験を積み、魔物の厄介さを学んで、次の機会に儂らと共に暴れてくれればよい」

『はい!!』

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