第174話

 俺たちは今、肉のダンジョン二十九階層にいる。二十一階層から出てきた魔物は、十階層から二十階層の魔物たちと見た目は変わらなかったが、強さや厄介さはさらに増していた。中でも特に大きく変化したのは、魔物たちが使用してくる属性魔法だ。

 二十階層までは、使用してくる属性魔法は簡単なものばかりだった。だが二十一階層から出てくる魔物たちは、階層を進んでいく事に少しずつ威力や速度が上昇し、魔法の種類も増えていった。さらには魔力操作や制御の腕も上がっており、人間の魔法使いでいう所の、魔法学院の下級生クラスにまで強化されていた。


(ただこの面子だから、まだまだ余裕だったな。少しずつ厳しい戦いになっていくのは、深層に近づき始めてからだな)

「改めて確認しておくが、今回のダンジョン探索は泊まり込みの一泊二日となる。今日中に三十階層まで到達し、翌日には再び一日かけて四十階層まで進む。ここまでは大丈夫かの?」

「はい、大丈夫です」

「カトリーヌお嬢さんが前回潜った時の最高到達階層は、ダンジョン深層と呼ばれる目安となる八十階層じゃ」

「八十階層には下へ進む階層があったから、予想では最低でも九十階層まであるわね」

「現段階では、儂ら全員の戦力でも余裕をもって対応出来る。しかし、六十階層から少しずつ余裕がなくなっていくじゃろうし、一階層分の探索速度も遅くなる。深層に近くなっていったら、自分の身体と心の状態を常に気にかけ、少しでも違和感を感じたら直ぐに誰かに伝えるんじゃ」

「深層や深層に近い階層では、魔物との戦いだけでなく、自分たちとの戦いも同時に起こるわ。違和感を放っておくと、魔法や身体の動きに確実に影響してくるわ。そして戦闘中にそれが悪化した時、最悪の場合死に至るわね。だから迷惑になるとか考えずに、自分の命もそうだけど、仲間の命も守るためだと思って直ぐに言ってちょうだいね」

『はい、分かりました』

「それでは今日の締めくくりとして、三十階層の階層主を倒すとしようかの」


 俺たちはそれぞれ気合を入れ直してから、三十階層の階層主の部屋へと足を踏み入れる。そして現れた三十階層の階層主は、驚くべき事に一頭の魔物だけだった。しかし、その一頭の魔物はこの肉のダンジョンでは初見の相手であり、俺たち人間よりも倍以上の身体の大きさをしている。


「魔物と化した熊ですね」

「身体の大きさは、野生の熊より遥かに大きいわね」

「それに爪や牙も、より鋭く、より大きくなってます」

「魔力量も、今まで戦ってきた魔物より多いです」

「三十階層の階層主から、魔物の強さが一段階上に上がる様じゃな」

「しっかりと動きを見極めながら立ち回って、下手に一撃をもらわない様にしましょう」

「動きに関しては、今まで通りと変わらん。儂とウォルター、カトリーヌお嬢さんが前衛。イザベラお嬢さんたちは、後衛から魔法による攻撃を仕掛けていく。各自、それぞれ油断せぬ様にの。では、――――行くぞ!!」


 ジャック爺の勇ましい号令と共に、三十階層の階層主である魔物と化した熊に、俺たちは戦いを仕掛けていく。熊の方も闘志をたぎらせて咆哮を上げ、俺たちに向かって真っすぐに駆け出す。俺たちと、階層主である熊の魔物との戦いの幕が上がった。

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