第165話

「ここが肉のダンジョンですか?」

「そうね。私の記憶の通りの位置にあるし、魔力の感じからいってもここで間違いないわ」


 コーベット男爵家の屋敷を朝一番に出立してから、馬車と歩きの両方で移動する事二時間半程で、俺たちは肉のダンジョンの入り口がある場所へと到着した。

 肉のダンジョンの入り口は、綺麗な水が流れる川の傍にある、大きな穴が開いている洞窟どうくつだった。その洞窟の奥から、カトリーヌさんの言う様にダンジョン特有の魔力を感知する事が出来る。

 俺たちは、全員装備や魔道具などを再度点検してから、万全の体制で洞窟内へと足を踏み入れた。


「これは……草原?」

「もの凄く開けた場所じゃの。色々なダンジョンに潜ってきたが、第一階層でここまで広大なものは久々じゃな」

「やっぱり、高難度ダンジョン並みの広さ?」

「広さで言えばそうじゃな。カトリーヌお嬢さんから聞いた話から考えるに、深層以外の階層は難度が低くく、深層から一気に難度が跳ね上がる類いのダンジョンじゃな」

「カトリーヌさん、上の階層では様子見の戦闘でも十分ですかね?」

「この面子で挑むのなら、軽めに戦っても上層は楽に進めるわ。寧ろ深層に辿り着くまでに、なるべく力を残しておいた方がいいわね」

「分かりました」

「では、行こうかの」


 近接戦闘もこなせるカトリーヌさんとジャック爺が前衛、現状は純粋な魔法使いであるイザベラ嬢たちが後衛寄りの中衛、そして後方からの奇襲に備えて後衛に俺がいる。

 何事もないまま草原を進んでいくと、俺たちの前方に牛が一頭現れた。全身が真っ黒で、頭部には短い角が二本生えている。その牛は特に魔物という訳でもなく、普通の牛に見える。もしかしてこのダンジョンには、魔物ではない普通の野生動物がいるのか?


「あれって、魔物じゃなくて普通の牛ですよね?」

「そうよ。先日の見学で見させてもらった牛たちと変わらない、何の変哲もないただの牛よ」

「ここってダンジョンですよね?そんな事あり得るんですか?」

「私個人としても初めての経験だったけど、未だ謎の多いダンジョンならそれもあり得るんじゃない?賢者様はどうお考えですか?」

「カトリーヌお嬢さんに同意じゃ。儂も、野生動物がいるダンジョンに何度か潜った事がある。その時に色々と調べてみたが、一切分からずじまいであった。まあ、ダンジョンだからと納得しておくのがよいの」


 ここでジャック爺は真剣な表情や雰囲気に変わり、俺たち全員を見回していく。それを見た俺たちも、気持ちを引き締め直してジャック爺を見る。


「では早速じゃが、様子見がてら一戦してみようかの。まずは、儂が威力の弱い魔法を一当てする。牛の意識や敵意がこちらに向いたら、各自散開しつつ牛の動きを観察。牛の脅威がどの程度か判明したら、儂が皆に合図を出す。その合図に従って、各自牛に対して攻撃を始めようかの」

「「「「はい!!」」」」

「「了解!!」」

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