第144話

 上空で、二匹の漆黒の蛇と二羽の氷の鷲、理知的な男とジャック爺がそれぞ殺し合いを始めた。幾つもの魔法陣が高速で展開され、色とりどりの魔法が空を綺麗に彩る。だがその見た目は綺麗でも、実際には一撃一撃が致命となる魔法ばかりだ。


(今の所、僅かにジャック爺が優勢の互角状態。だが理知的な男は、一流の魔法使いであり近接戦闘もこなせる戦士でもある。今は魔法戦闘のみだが、近接戦闘を混ぜ合わせてくると厄介な相手になりそうだ。……でも、ジャック爺が負ける姿は想像出来ないけどな)

「俺を相手にしてるのに爺の心配か?余裕だなぁ、テメェ!!」


 粗暴な男が攻撃のペースを上げてくる。両拳のガントレットに両脚のグリーブの魔力を高めながら、息つく間もなく拳や蹴りを放ってくる。それら全てに触れると爆裂魔法が発動するため、ロングソードで受け流す事も、直接受け流す事も出来ない。なので、魔力障壁を展開して爆裂魔法を防ぎつつ、魔力の斬撃を飛ばして応戦しながら、どうすれば真面に戦えるかを探っていく。

 徐々にロングソードに纏わせる魔力量を上げて強化し、身体強化の魔法にさらに魔力を込めて身体能力を上げていく。そして、身体全体を魔力でおおい、魔力による防御壁を作り上げる。そこからさらに一手加え、身体の各部を覆う魔力を変化させ、ただの防御壁から鎧へと形状を変える。


「何だ、それは?」


 粗暴な男が驚くのは無理はない。俺が形状を変えた鎧というのは、西洋のプレートアーマではなく、日本の侍の象徴でもある鎧の方だからだ。見た事もない鎧の形状に、粗暴な男は驚きと警戒にその動きが止まる。

 この形状変化は、ただ魔力の形を変えたというだけではない。漠然とした防御壁という形から、身を守る防具という方向性を魔力に与える事で、魔力の性質が中性のものから守勢しゅせいの性質に変化する。この魔力の性質変化は、俺とジャック爺の共同研究によって判明した、純粋な魔力が持つ秘めたる力の一つだ。もう何年も純粋な魔力の研究を二人でしているが、色々と謎が多くて好奇心が刺激される。

 魔力の性質が守勢の性質に変化すると、魔力による一撃のダメージが大きく減る代わりに、物質として非常に硬くなる。物質として存在する剣や槍の斬撃や刺突、魔力で生み出した剣や槍などの攻撃も難なく防ぎ、威力の高い魔法に対しての防御力が高く、属性魔法への耐性も非常に強いのだ。この鎧であれば、爆裂魔法を防ぐ事が出来るはずだ。

 俺は一歩踏み込んで加速し、粗暴な男に向かって真っすぐに距離を詰める。粗暴な男は、ニヤリと笑って魔力を高めながら待ち構える。ここで不用意に接近してこない所を見るに、鎧の事を相当に警戒している様だ。


「何だか知らねぇが、自分から突っ込んでくるとはなぁ!!その身体に、真っ赤なはなを咲かせてやるよ!!」


 互いの射程圏内に入った瞬間、俺と粗暴な男は同時に動く。だが、一瞬早かったのは粗暴な男の右拳。ロングソードの柄を両手で持ち、上段に振り上げている俺の胴体に向けて拳を叩き込む。俺は拳を叩き込まれた瞬間、身体に力を入れてその場に踏ん張る。叩き込まれた右拳から爆裂魔法が発動し、漆黒の爆炎が俺に襲い掛かる。


「ハハハハハハ!!こりゃあ、どてっぱらにデカい穴が開いたな!!」

「――――――!!」

「――――な!?」


 粗暴な男は勝利を確信し、高笑いをしながら無防備になっている。俺はその無防備な状態を見逃さず、右脚を一歩前に踏み込み、上段に振り上げていたロングソードを真っ直ぐに振り下ろす。

 漆黒の爆炎の中から無傷の俺が現れたのを見て、粗暴な男は驚きによって数秒身体が完全に固まる。直ぐに硬直から立ち直って体勢を整え、腰を回転させながら左拳を放ち、爆裂魔法による迎撃を繰り出してきた。だがそれは、致命的なまでに遅い。

 放たれた左拳が俺の身体に届く前に、振り下ろされたロングソーの刃が粗暴な男の身体に届く。ロングソードの刃は、粗暴な男が身体に纏わせていた魔力の防御壁を何の抵抗も事なく切り裂き、そのまま右肩から股関節までを縦一直線で綺麗に切り裂いた。

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