第73話
「これはもしかしたらだけど、‟癒しのオレンジ”?‟若返りの桃”程じゃないけど、市場にも中々出回る事もないし、十分に貴重で希少な果物よ。それにしても…………」
アンナ公爵夫人が、何処か呆れた様な視線で俺を見てくる。だが先程までの鋭い眼光に比べたら、精神的には幾分かマシだ。あの獲物を視線だけで殺せてしまう様な目で見られるよりも、またですかと呆れられた方がダメージは少なくすむからな。
それにしても、若返りの次は癒しですか。確かに、ストレス軽減や肌艶に良い効能がオレンジにはあるが、癒しという
魔境には、桃やオレンジ以外にも色々な果物が自生している。その中には、‟癒しのオレンジ”よりも遥かに高い癒しの効能をもつ果物もある。それに、魔境に自生している薬草類はどれも高品質なもので溢れている。だからオレンジは身体の不調を癒す事よりも、ストレス軽減の為に食した方が良いと個人的には思っている。
「ウォルターさん、これもまた魔境に自生しているんですか?」
「ええ、そうですね。ただオレンジが生えている場所は、桃がある危険度の高い場所よりかは幾分か安全な場所ですね。まあどちらの場所も、気を抜くと死に繋がる場所である事には違いないですけどね。だから俺にとっては、桃よりかはオレンジの方が希少度は低いですね」
「なる程。しかし、やっぱり魔境産の果物ですか。私たちが知らないだけで、世に出回らない貴重で希少な果物は、魔境などの人外の地に自生しているんでしょうか?」
「それに関しては俺には何とも…………。ただ魔境には、効能が高いものが多く自生しているのは確かですね。アンナ様が驚くようなものが沢山あるとは思います」
「……今聞いてしまうと、精神が保てないかもしれないので止めておきましょう」
アンナ公爵夫人が、魔境に自生しているものたちに興味を示しながらも、それを知る事で精神的に疲れる事が分かっているので、残念そうに知る事を諦めた。
それよりも俺としては、マルグリット嬢のストレスを軽減するためにも、早くオレンジを食べてもらいたい。しかしアンナ公爵夫人と言う上位者がこの場にいるため、同じ公爵家の者と言えど先に口にする事が出来ないのか、今もオレンジに手を付けずにいる。
(流石にこの状況で、一人だけ食べるなんて出来ないよな。それに俺としても、マルグリット嬢やナタリー嬢だけの振舞って、イザベラ嬢たちに振舞わないわけにはいかないしな)
「皆さんの分も用意しますから、少々お待ちください」
「……ウォルターさん、いいんですか?」
「まあ二人分用意するのと、五人分用意するのは変わらないですしね。料理ならまだしも、果物を切り分けて皿に乗せるだけですしね。そこまで手間ではありませんから、気にしなくても大丈夫ですよ」
「……そう、ですか。ありがとうございます」
イザベラ嬢が、申し訳なさそうにしながら謝意を示してくれる。だが自分で言った様に、果物を切り分けて皿に乗せるくらいなら、大した手間でも労力でもない。
それにこの流れは、実家でも散々あった流れだったからな。魔境で何か新しいものを見つけてくる度に、女性陣がスススッと無言の連携で包囲網を作り、逃げれない様にされてきたからな。本当に家の女性陣は遠慮がないし、追い詰め方が狩猟のそれなのだ。そんな毎回の様に瞬時に狩られてきた時の状況と比べれば、俺にとっては全然優しいものなのだ。
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