第59話 洋介


 「お疲れー。飲み物買って来たよ」


 部室に戻ると、真っ白になった2人が机に突っ伏していた。

 今日1日でずいぶん詰め込んだ勉強をしている叶恵と横山さんである。

 まだテストまで1週間あると言うのに、大した心掛けだ。


 「はい、三島さん。お茶で良かった?」


 取り敢えず、俺はそう言って無事そうな三島さんに、買ってきたお茶を渡す。


 「え?、いいの?ありがとー。後でお金渡すよ」


 「いいよ。奢るつもりで買ったものだし」


 「……おー、なるほど。優しいし、気も利くと……」


 すると、納得した様に三島さんは頷いてそう呟く。

 褒められたのは嬉しいが、なんだが何かを確かめる様な口調でもあった。

 それはともかく、次に俺は机で項垂れている横山さんに、ミルクティーを差し出す。


 「はい、お疲れ横山さん。ミルクティーで良かった?」


 「……サンキュー。よくアタシの好みが分かったな?」


 「篠塚さんに聞いたんだよ」


 「……ああ、なるほど」


 横山さんはゆっくり上体を上げるとミルクティーを受け取る。

 そして、次は……


 「ホラ、叶恵。お前のもあるから、さっさと起きろ」


 「……なんか、私だけ態度違くない?」


 一日にこれだけ勉強してもまだまだ足りない叶恵に対し、俺はまだまだと言った口調でそう言う。

 叶恵は机に突っ伏したまま、気怠そうにそう返してきた。


 「お前が1番ヤバいんだから、もっと気合い入れろ」


 ここで甘やかして勉強しなくなるのは、過去の経験から分かっているので、あえて厳しく接する。

 叶恵も逃れられないのが分かっているのか、突っ伏した状態からやっと顔を上げた。


 「お、マック○コーヒーじゃん。分かってるねー」


 差し出したコーヒー牛乳を見ると、叶恵は偉そうにそう言ってくる。

 買ってやってると言うのに随分な態度だ。……コイツからだけお金を分取ろうか?


 「さんきゅー。やっぱ持つべきは出来た幼馴染ですわ」


 尚も上から目線でそう言ってくる叶恵。まあ、お礼の言葉は聞いたのでそれで良しとしよう。


  

 「よくこんな甘いの飲めるな。俺には甘すぎて無理だ」


 「分かってないなー。この甘さが良いんじゃないのー」


 そして休憩中、いつの間にか俺と叶恵は買ってきたコーヒー牛乳について、議論を始めていた。


 「くどくないか?」


 「疲れた頭にはコレが一番効くんですー」


 いつもなら俺の部屋でやる様なやり取りを、文芸部室でやっている。

 何というか、変な違和感があった。

 

 「……お二人さん、仲がよろしいのは良いけど、そろそろ勉強もしないと」

 

 すると、困った顔で三島さんがそう言ってくる。時計を確認すると、休憩に入ってからもう20分が経とうとしていた。

 結構長く話してしまっていたらしい。


 「あ、ごめんごめん。じゃあ、はじめよっか?」


 流石にまずいと思い、俺は軽く謝って横山さんと篠塚さんに向かってそう確認する


 「……うん」


 「……ああ」


 すると、2人とも複雑そうな顔つきで返事をして来た。

 

 そこまで早く勉強をしたかったのだろうか?そう思うと、何だか申し訳ない気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る