第3話 温もりは愛
親と会話する事で言葉を覚える。
親の行動を見て世の中を知る。
子供とはそう言うものだ。
明にはその機会が与えられ無かった。
普通に考えれば言葉を話せる筈は無い。
食べて、排せつして、寝る。
人ではあっても人間とは言えないだろう。
しかし明は言葉を話す。
シュ~シュ~と息が漏れ、聞き取り辛いが
4歳児とは思えない
それどころか礼儀すら弁えている。
ぺこりと頭を下げて挨拶をする。
聞かれた事には、ちゃんと答える。
知能テストの結果は平均より少し高い。
ややアンバランスな面はあるが、問題は無いだろう。
役所から事情を聞かされていた主治医は頭を
一体どうやって身に付けたのか?
誰が教えたのだろう?
そんな人物は居なかった筈である。
その通り!
そんな人物は居なかった。
でも”彼女”が居た。
明の頭の中に”彼女”が居たのだ。
言葉を教えたのも、礼儀作法を
すべて”彼女”の為した事である。
明の頭の中に響く声。
明だけに聞こえる優しい声。
明は決して孤独では無かったのだ。
入院はひと月ほどであった。
その間に明の住所変更がなされた。
養子縁組も考えたが、裁判所の許可が降りないだろうと言われた。
そこで長期の通院治療を理由に保護責任者として手続きを行った。
里親の様なものだ。
新しい生活が始まった。
修二の住まいは繁華街から少し離れた所に在る六軒長屋。
狭い玄関と台所、手前の四畳半と奥の六畳間の二部屋。
トイレは在るが風呂は無い。
修二は優しかった。
一緒に朝ご飯を食べて呉れた。
暖かいご飯と、暖かい味噌汁。
「美味いか?」
「うん!」
もうシュ~シュ~しない。
手術跡は痛々しいが、痛くは無い。
見てくれが悪いだけだ。
職場が近いので昼の休憩時間にも帰って来て呉れる。
夜は少し遅い。
3日に一度のペースでお風呂屋さんに行く。
手を繋いで行く。
手を繋ぐと暖かい。
間の日は手ぬぐいで体を拭いて呉れる。
ペロペロと舐めて呉れる。
くすぐったい。
唇も舐めて呉れる。
チュ~チュ~して呉れる。
抱きしめて呉れる。
とても温かい。
とても温かい。
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