ロリコン×ロリコン
「え……? なんでヨクくんが?」
「問題なのは迷宮の中に立て篭ってるやつがいるから退かしたいけど、探索者が「人間と戦う」のを嫌がっているからだろ。で、木田はどうしてもその迷宮の探索を続行したいけど、性格の悪さのあまり人望がなくて新子を頼りにきたつて話だ」
木田は「性格悪い……人望がない……」とショックを覚えた様子で呟く。
いや、間違いなく事実だろう。むしろ自覚がなかったのか。
「俺は人と戦った経験が何度かある。特に抵抗はないし、適任だろう」
「いや……その、ヨクくんか引き受けるのはおかしくないかな。木田くんのお願いを聞く
「ほっとけば新子が引き受けそうだからだろうが」
俺が新子の額をつつくと、新子はでこを抑えながら少しうつむく。
「ご、ごめん」
「怒ってはない。けど、まぁ……図星だろ」
仕方ないな、とばかりに笑いかけると、新子はほんの少し迷った様子を見せて、けれどもどこか子供を見るようなやさしげな表情を俺に見せる。
「……初ちゃん、ヨクくんがいないと寂しがるよ?」
「それは……お願いしていいですか?」
「……仕方ないなぁ」
新子がそう言ったところで木田が口を挟む。
「いや……こんなのについてこられても困る。足手まといでいいから人手がほしいってわけじゃないんだよ。柊に来てもらわないと」
「安心しろ。俺は強い」
木田は面倒くさそうな表情を浮かべて手を上げる。その一瞬、俺の脚が木田の腕を蹴り上げる。
「ッ! お前……」
「今、袖から銃を出して撃とうとしただろ。俺を推し量るつもりか、それとも脅しか」
袖に黒い銃口がこちらに向いていることを指摘すると、木田は落ち着き払った様子で自分の手を動かす。
「……結構な勢いで蹴られたはずが、痛みもなく、怪我もない。……治療、いや、ダメージを消す? 妙なスキルだな」
木田は驚く様子もなく淡々と俺のスキルを推測しながら再び銃をこちらに向け、その引き金が鎖によって動かなくなっていることに気がついて眉を顰めて銃をしまう。
「ダメージを拘束に変換するスキル【
「そうだな。……つっても、まぁ……何というか」
下手なやつよりもよほど強いことは示したつもりだが、木田は不愉快そうに俺を睨み、ポケットから細い棒……扇子を取り出して広げる。
「お前、不快だな」
木田が扇子を払った瞬間、扇子によって引き起こすことが出来る風量を遥かに超えた突風が発生して俺を吹き飛ばす。俺は驚きながらも地面に着地し、追撃しようとする木田の射線から逃れようとする。
「ヨクくんっ!」
新子が慌てて俺に駆け寄ったところで木田の手が止まり、めんどうかそうな様子で新子に言う。
「離れてろ、柊」
「何言ってるの! 怒るよ!」
「優しさでやってるんだ。分かんねえかな。下手すりゃあ返り討ちだぞ」
「だからってこれは違うでしょっ!」
怒る新子に木田はしっしっと手振りで追い払おうとしながら俺を見る。
「お前も、やられっぱなしじゃいられないよな?」
「……まぁ、木田が素直に帰ってくれるならいいが、まだ新子を誘うつもりだろ」
「そりゃな。……こいよ、新人。本物の探索者ってやつを教えてやる」
「……新子、悪い。下がってくれ」
「も、もうっ! ヨクくんまで!」
新子は怒りながらも下がって巻き込まれない位置まで距離を置く。
……お互いに簡単なスキルの紹介は終えた。木田のスキルは風を操る……いや、わざわざ扇子を取り出したところを見ると「風を増幅させるスキル」だろうか。
俺が自分のスキルを話したあとに見せつけるようにしたということはおそらくわざと推察させているのだろう。
人ひとりを容易に吹き飛ばす威力の突風が手を振るうだけで発生か。しかし、風という性質上、直接当たっても大した威力ではない。
木田は大ぶりで先程と違い地面に向かって扇子を払い、発生した風が大小のゴミを吹き飛ばして俺に攻撃をする。
「まぁ、直接風を当ててもダメージにはならないしそうなるか」
正直、読めていたな。そう思いながら電柱の後ろに隠れてやり過ごす。
この距離なら攻撃力はそれほどでもないが……問題は近くで直撃を受ければ再び吹き飛ばされてしまうことだ。風の性質上、遠ければ遠いほど拡散して威力は減るが、近づかないと攻撃が出来ない。投石などは出来るが石なんか簡単に吹き飛ばされるだろう。
厄介だな。それに俺や星野のようなスキルを得たばかりのやつと違って発動出来る回数は多く、その見極めも出来るだろう。
息切れは望めない。電柱の裏から廃墟の民家の塀を登ってすぐさま飛び降りる。
塀を利用して近づこうとする思惑は木田にも伝わっているはずだが、離れようとする素振りはない。
警戒しながら近寄ると、塀越しに木田の声が聞こえる。
「……たった数日だろう。何も知らないような仲で、アレに手を出そうとすると後悔するぞ」
警告のような言葉。けれども、今それを言う意味があるのだろうか。こんな戦闘中に……と思ってから、ゆっくりとため息を吐く。
「……ああ、そういうことか」
「なんだよ」
「木田、さっき新子が間に入ったときに攻撃を止めたな。新子は不死身だし痛みにも大して頓着しない。加えて、わざわざ新子から離れたところで俺に話しかけてきた」
「……無駄口を叩く余裕はあるのか?」
塀の上から大量の木の葉や木の枝が降ってくる。大した威力ではないだろうが、無駄な怪我を避けるために窓の割れた廃墟に飛び込み躱すと易々と塀を飛び乗った木田が扇子を振るおうと腕を振り上げる。
「屋内なら躱す場所はねえだろ。マヌケが」
俺は壁を思いっきり蹴り、先程蹴ったことで溜めていたダメージを鎖へと変換し、壁と木田の手を繋ぐ鎖を発生させる。
「ッ!」
「塀の上に立つからだ。間抜け」
発生した鎖を思いきり引っ張り、引っ張られた木田が塀の内側に落下し舌打ちをしながら着地するが、その隙を見逃さずに距離を詰める。
「チッ」
「……それに加えて、来るのが早すぎる。お前が言ったように新子が来てから数日。新子が迷宮立て篭りの情報を知らなかったと言うことは、たった二、三日前の事件だ」
木田が振るおうとした扇子を足で蹴り上げると、木田は予測していたように「ふっ」と息を吐く。
木田の吐いた息によって引き起こされた風が増幅されるが、そうくるであろうと予測していたので体をずらすだけで回避する。
「いくら性格が悪くて人望がないと言っても、早すぎる。つまり……迷宮の立て篭りやらは口実で、新子に会いに来たというのが実際だろう。……ロリコン野郎がよ……」
木田は大きく手を広げて横振りに手を振るい突風を発生させるが、元の風量が少ないためか威力がなく、ふんじばって耐えることが出来る。
「違えよ! ガキはなんでも色事にしたがる!」
「うるせえぞロリコンがよ……。真面目に相手してやったのに、ただ追いかけてきただけとか……。そりゃ俺が行くって言ったら嫌がるよな」
「違うって言ってんだろ!」
新子が可哀想だ。こんなやつに言い寄られて。
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