修行×精神

「まぁ、ヨクくんのスキルが混じったといってもかなり浅くってところだけどね。本来の魂霊術に比べて発動に時間と集中力がかかるし、出力も落ちてあまり実用的じゃない」

「まぁ、俺のスキルが混じった時点で実用的じゃなくなるだろうけどな。それで、どういう修行をするんだ?」


 新子は幼い顔を恥じるように赤くして、もじもじとしながら小さな口を照れの混じった表情で動かす。


「えっと、手っ取り早い方法と、時間がかかる方法、どっちがいい?」

「そりゃ手っ取り早い方法がいいが」

「……え、えっと、その……相手を良く知るには、内面的なところもそうなんだけど肉体を知ることも一助というか……」


 新子は顔を赤くしながら、ゆっくりと口を開く。


「……ええっと、それはどういう」

「その、お互いの身体を隅々まで見たり触ったりすると、習得しやすい……らしい、の」


 初のためなら何でもする。

 俺はいつだってそう思ってきたし、それに嘘はないつもりである。

 けれど、けれども……新子の方を見る。若いどころか幼い身体つき、子供特有のほっそりとした手足と綺麗なつるつるとした肌。

 まるっきり子供の体をしていて、これと体を見せ合ったり、触り合ったりは……。


「犯罪臭が、ものすごい」

「そ、それは、だ、大丈夫だよ。逆に、逆に子供すぎてそういう感じにはならないかもだし」

「……いや、反応しないという確証を持てない」

「は、反応って……ぅ、ヨクくんは、変わり者だね」


 新子にぽすぽすと叩かれる。


「ま、まぁでも、ちょっとぐらいなら、恥ずかしくても我慢するよ。ふたりの助けになりたいから」


 新子は健気に俺に笑いかけ、俺はそれを聞いて首を横に振る。


「いや、初は大切だけど……別に新子のことがどうだっていいなんてことはないからな。普通に、女性なんだから裸を男に見せるとかは、嫌だろ」

「……恥ずかしいのは、確かだけど。やれることをやらずに、負けてしまったらって考えると」


 新子の言うことはもっともなのだろうが、新子を傷つけてまで頷く気にはなれない。


「……あ、じゃあ、初ちゃんにお願いしたらいいんだ! スキルを取得してさ。恋人ならセーフでしょ」

「……いや、初のことは大切にしたいんで」

「ええ……じゃあツツちゃん?」

「あー、ツツならセーフか」


 なんだかんだ、そんなに気にしなさそうだし、星野も実際そんなにツツが好きって雰囲気でもないので揉めることはなさそうだ。


「ツツちゃんならいいんだ……」

「いや、アイツ、嫌なら普通に断るだろうし、なんだかんだ関係性的にいやらしい雰囲気にはならなさそうだし……」

「ええ……かわいいよ?」

「見た目はそうかもしれませんけど……」


 何というか……ツツはこう……エロくない。


「というか、別に星野でいいんじゃないか?」

「んー、無理じゃないけど、結構異性間と同性間で成功率に差があるのと、たぶん星野くん向きの方法じゃないのが」

「同性だと難しいのか?」

「うん。そもそもみんな知らないような技術だからサンプルが少ないけど、なんとなくね。たぶん「自分と同じところ」が個人的ものではなく、性別的なところに依存するからかな。あと、特に男の子同士だと対抗意識が出ちゃうからかな」


 つまり具体的なことは分からない……と。


「星野向きじゃないってのは?」

「星野くんのスキル【対俗物地雷フェアリーマイン】はかなり強力なスキルだから、新しいスキルを身につけるよりもその精度を上げたり使いこなす方がいいっぽいという感じかな」

「あー、まぁあれは強いですよね」


 道に転がる瓦礫を軽々と吹っ飛ばす星野を見て頷く。

 踏んだもの……というよりも脚で触れたものへの衝撃を遅らせるスキル、フェアリーマインは複数回同じ箇所を蹴り、力を貯め、それを同時に解放することで強い衝撃を発生させることが出来るらしい。


 到底、人では動かせなさそうな瓦礫を十度ほど蹴ったあと、トントンと離れて指をパチンと鳴らすと瓦礫が吹き飛ぶ。


 元々、星野が馬鹿力なのもあってかなりの威力だ。


「星野の装備は安全靴とか良さそうだな。弱点は即効性が低いことか」

「まぁ武器とかで補うべきかな」


 一度蹴ったところに乗った星野はジャンプの勢いと同時に衝撃を解放することでかなり高いところまで飛び、かなり慌てた様子で着地する。


「うわ……あれ大丈夫か……? 骨折ってないよな」

「ん、着地のときに能力を発動して衝撃をなくしたっぽいね」

「ああ、そういうのにも使えるのか。ならどこからでも落下しても平気か」

「いや、頭から行ったらダメだと思うよ」


 あー、そりゃそうか。でも、やはり星野のスキルはいいな。交換してくれねえかなぁ。


「それでヨクくんの修行だけど……本当にツツちゃんとするの?」

「いや……流石に女の子相手に申し訳ないからやめとく。というか、流石に「ツツ、裸見せて」とは頼めないだろ……」

「……そうだね」

「それが効率いいのは分かったけど、新子はそうしなくても使えてるわけだし、ゆっくりやっていくよ」


 本当に切羽詰まったら何ふり構わずするしかなくなるが、今は新子もいるおかげで多少の余裕がある。


 模倣の廃廊という逃げ場と、新子の治癒能力、あと純粋に俺が強いこととツツが優秀であること、状況は良くないが人材や物はかなり良いものが揃っている。


「んー、じゃあ、自分はどんな人間かを考えて、そこから他者との違いを把握する方法でいこうか」

「どうするといいんだ?」

「……ヨクくんには……かなり、キツイ修行だと思うけどいい?」

「どんな内容でも異性と裸を見せ合うのよりかは楽だろ」


 新子は少し迷ったような表情を浮かべてから頷く。


「おほん、最近苦悩したこととかある?」

「……お悩み相談……? そりゃ、まぁこんな状況だしな、これからどうするかとか」


 かなりキツイ修行というわりに気楽な質問だな。と思っていると、新子は首を横に振る。


「そういうのじゃなくてね。……もっと、みっともなくて人に話したくない内容の話を赤裸々に語る感じで」

「……ええ……」


 それは本気で修行になるのか? それで強くなれるのか?

 そう思いはするが、新子を師事すると決めたのだ。みっともなくて人に語れないような悩みを口にすることに決める。


「……いや、でも、正直な話、新子さんにドン引きとかされたら混霊術どころじゃなくなると思うんだけど」

「大丈夫だよ。これでも長生きしてるんだから、人間には悪いところもあるってぐらい分かってる」


 それはそうかもしれないが……見栄っ張りな性分のせいか、どうにも何を言えばいいのか分からなくなってしまう。……正直に自分のことを語るというのは……確かに難しいかもしれない。

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