部屋割り×ずっと一緒
いやでもツツと俺が話していたら不機嫌そうにしていたしな。……いや、でもそれは初対面の時だけか?
どうにもよく分からない……というか、自分の恋愛感情、それも両想いになっていてすらおぼついていない俺が他人の感情をどうとか推測するのが無茶というものか……。
そんなことを考えながら部屋に戻ると、新子は俺にアイコンタクトとウインクをしてから、ツツはにやぁと笑みを向けてから俺と初を残して隣の一室に移動する。
……めちゃくちゃ気を遣われた。逆に気まずい。
俺はそう思ったが初はあまり気にしていないのか、甘えた様子で俺の手を引っ張って俺をソファに座らせて初もその隣に座る。
こてりと首を俺の方へと傾けた初の方を見て、やっぱり可愛いなと思う。
「兄さん、しばらくは迷宮に行かないんですよね」
「まぁ、タイミングを逃したから急ぐ必要は無くなったな。身の回りを整えてからの方がいいだろうな」
初からしたら早く探索した方がいいだろう。けれども初は安心したようにホッと息を吐いて俺の手を握る。
「探索、辛くなかったですか?」
「色々と興味深かったな。流石にドラゴンが出た時はおどろいたが」
「ん……ドラゴン……平気でした?」
「まぁ、この通り」
正直に負けたとは言えず、けれども「余裕だった」なんて嘘も吐けない。平気そうに振る舞って見せると、初は笑みを浮かべる。
「まあでも、流石に素手の上にスキルが邪魔してくるからかなりやりにくいのは確かだな。せめて何か武器とか持っといた方が良かったな」
「武器……ですか。まぁ普通は持ってるイメージありますね、銃とか剣とか」
「ああ、素手だとかなり大変だった。今までは拾ったものとか素手でも平気だったが、本格的に潜るなら用意する方がいいな」
「……そもそも素手で魔物って倒せるものなんですか? 兄さんのスキルは攻撃に使ったり防御に使ったり出来るものでもないですし……」
「頑張れば。まぁでも武器は持つことにするか。とは言ってもどんなものを持てばいいのか分からないな」
会話の内容はあまり色気がないものだ。女性とイチャイチャする会話などよく分からないし、俺以外との恋愛経験のない初も同様だろう。
今後の動きを決める大切な話をしているものの、俺も初も話の内容自体はどこか上の空だ。
「……武器はよく分からないです。お父さんも見せてくれなかったですし」
「そういえば人工迷宮の中にもなかったな。家の中にも……あっ、車か」
「そうかもしれないです。……人工迷宮に置いておくのが楽かと思いますけど、私の手に触れるようなところは危ないと思ったのかもです」
武器か……やはり経験がある新子と相談するのがいいだろうか。わりと小器用になんでも使える自信はあるので、いくつか持っていくというのもありかもしれない。
そう考えていると、初はすりすりと俺の肩に頭をくっつけて笑みを浮かべる。
「……今日は気を遣ってもらいましたけど、こうしてゆっくり二人で過ごせる時間は減ってしまいそうですね。新子さんに加えておふたりも一緒ってなると」
「いや、流石にあのアパートの間取りで五人は無理だからツツはツツで隣を借りるとかすると思うぞ。星野は……ツツと一緒に住むってことはなさそうだし、人工迷宮に住み着きそうな感じがするな……」
平気か? と初の顔を見るが、初はそこにはあまり気にしていないようだ。
まぁ空き部屋どころが空いてる階が何個もあるぐらいだしな。
「……三人で住むとしても、なんていうか……その、あまり新子さんに気を遣われすぎるのも恥ずかしいですね。……夜とか、変に気を遣われてしまうと」
…………いや、手を出しませんよ、初さん。
まだ実地に行っていないの具体的には分からないが、担任の先生も住んでるアパートで妹に手を出すのは無理だ。
いやそうでなくても大切な初をそんな雑には扱いたくない。
「……寝室は俺一人と初と新子って感じで分けた方がいいんじゃないか?」
いっそのこと、もう一部屋借りられたら俺と星野、初と新子とツツという具合に男女で分けた方がいいのかもしれない。
「……や、です」
「だよな。でも、幾ら俺たちの仲と言ってもずっと一緒に寝るのは初はしんどくないか?」
「……兄さんは嫌なんですか?」
「そんなわけないだろ。……初が俺を必要としてくれている限り、ずっと一緒にいるよ」
俺がそう言ってから初の頭を撫でると、初は嬉しそうに目を細めて俺にもたれかける。
身を委ねてくれていることへの喜びに陰を帯びた薄ら暗いものが喉の奥にへばりついているのを感じる。
……初は俺に依存している。初は短い期間に多くのものを失った。
人付き合いが得意ではない初は学校でも友達が多いわけでもなく、近所付き合いが盛んでもない。
知り合いはいても親しい人は少なく、その親しい人がいなくなった。そんな中で、俺という存在が初の中に侵入してすげ変わった。
父親に、母親に、家に……初の安心出来る場所が全てなくなって、頼れるのは俺だけだ。初自身に自覚はないだろうけど、初は俺が自分から離れることを強く恐れている。
俺が初に捨てられることを恐れているように、初も俺に捨てられることを恐れている。俺が初に媚びているのと同様に、初も俺に媚びているのだ。
初がもたれかかってきていることで、上から初の襟元の隙間が覗けてしまう。しっかりとした服を着ているため、一番見えやすい角度でもほんの少しの隙間があるだけで、中の下着も見えそうで見えないが小さな膨らみとその間の谷間と呼べるか微妙な胸元が微かに見える。
初の体温が俺に移り、不思議そうな上目遣いの視線から目を少し逸らす。……好きな女の子、好意を寄せてくれていて……俺の言うことは、きっと何でも聞いてくれるだろう。
先程の「手を出さない」という気持ちが揺らぐ。柔らかそうな白くて綺麗な肌を見ていると、俺の中にある獣性が鎌首をもたげる。
今、初の胸を触っても、きっと嫌がることもせずに俺の行為を受け入れてくれるだろうと分かっていた。むしろ、俺が初の身体に興味を持っていることを知れば「兄さんは私を欲しがっているのだ」と安心してくれるぐらいかもしれない。
「どうかしましたか?」
「……いや、初は可愛いなって」
手を出せる。やれる。好きに出来る。
そう分かりながらも初の胸元を見ないようにして手を握る。
……俺は最悪だな。弱っている女の子の弱みに付け込めば欲望を満たせると考えるなど。
分かっている。分かっていても、欲望はある。
「えへへ、今日はずっと一緒ですよ」
「ああずっと一緒だ。ちょっとシャワー浴びてくる。一回身体は拭いたけど、少し残っていそうだ」
頭を冷やすためにそう言って立ち上がると、初は少しぼーっと俺を見て「ずっと一緒……お風呂……」と口にしたあと顔を真っ赤に染めて、潤んだ瞳で俺を見る。
「そ、その……ず、ずっと一緒というのは、お風呂も含めるご予定だったでしょうか?」
「……その予定ではなかった」
初はホッと息を吐いて少し安心したような表情を浮かべる。
その予定と答えたら一緒に入れたのだろうか。いや、考えるな、不埒な目を初に向けるな、俺。
「ずっと一緒と言っても……トイレとかもあるんだぞ。そんな厳密に離れないというわけじゃなくてな」
「と、と……トイレは、そ、その……えっと……に、兄さんがどうしてもと、言わない限りはか、勘弁していただこうと」
「……どうしてもと言ったら」
しどろもどろになってるいる初に思わず確かめると、初は幼さの残った可愛らしい顔を真っ赤に染めて俯く。
…………早急に、早急に、冷水を頭から被って頭を冷やそう。俺はお兄ちゃん、俺はお兄ちゃん、俺はお兄ちゃん。初の兄である。保護者だ。ダメである。
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