書き換え×力づく
俺と新子がわーわーと騒ぎながらどちらかが囮になるかで揉めていると、星野が大きく息を吐き出して呆れた表情を俺に向ける。
「おい、ロリコン」
「ロリコンじゃねえよ!」
「中二と付き合っていて、新子が脱ぐやら脱がないやらで慌ててる奴はロリコンだろ」
いや、初は初だから好きなのであって年齢は一切関係ない。それに裸を見ないようにしているのだったらむしろ逆なのではないだろうか。
「……星野くん、ロリコンってなに?」
「えっ、ああ、小さい女の子が恋愛対象のやつ」
星野は答えるか少し迷った表情を浮かべたが新子の年齢を思い出したのか軽く答える。
新子はそれを聞いて「へー」という表情を浮かべてから、徐々に顔を赤らめていく。
「えっ、わ、私のことそういう対処にみ、見え、見れるの!?」
新子は慌てたようにスカートのファスナーを上げて脱いでいた俺の上着で身体をきゅっと隠す。
「い、いい、いや、そんなことはないからな。普通に、初のことが好きなだけだし、そもそも初の年齢と新子さんの見た目の年齢は結構離れてるだろ」
俺は否定するも、否定する動きが大きすぎたのか新子は完全に星野の言葉を信じてしまったようで、スッと自分の身体を隠す。
「……ヨク、お前って結構口下手だよな。ほとんど語るに落ちてる反応だぞ」
「勘違いだからな。……まぁ、口下手なのは否定しない。あまり友達とかいなかったしな」
「ヨクってあれだもんな、あんまりヘラヘラしないしつるむのも好きじゃないだろ」
「……さあ。とにかく、俺が囮をする」
再び新子と言い合いになろうとして、星野が俺と新子の間に入ってそれを事前に止める。
「はい、ストップストップ。どっちの言い分も分かるが、そもそもの話として囮作戦ってそんなに効果的か? 例えばさっき炎を吐くかもって言ってたけど、南棟の玄関で囮になったやつに向かって吐かれて、囮が校舎の中に入ってそれを避けた場合、玄関に炎が残ってたら出てこれなくなるだろ。そうなると囮は囮の役目を果たせずに、竜は進もうとした二人の方に来るわけで」
「……見た目が火を吐きそうってだけだろ」
「そりゃそうなんだけど、そもそも囮がどれほど役に立つかって話なんだよ。アイツは強そうってことしか分からないのに戦力を分けても仕方ないだろ」
それはそうだが……楽観視してノコノコと出ていくわけにはいかないだろう。
星野は息を吐いてから軽く頷く。
「もちろん、何か策を練るべきだが……。少なくとも「ダンジョンの仕様」によって建物ごとぶっ壊されるってことはないっぽいし、一旦ゆっくりしよう。一応弁当持ってきてるしな」
「……お前、肝が据わってるな」
「ビビってもビビらなくても死ぬときは死ぬ。ならビビらない方が得だ。幸い椅子と机は大量にあるわけだし座って飯食って考えよう」
星野はそう言って近くの教室に入り、ツツと初が握ってくれていたおにぎりを広げる。
「まずは落ち着くか。ほら、ヨク」
「……人と飯を食うのは嫌いだから別の教室行っていいか?」
「危険だから却下だ」
星野に手渡された初のおにぎりを持って少し離れた場所の椅子に座り、それから深く息を吐く。
「んー、西郷くんことヨクパパはどうやって見つけたんだろ? 武道場の死体は星野くんのおかげで見つけられたけど、ヨクパパだとスクワット侍は突破出来ないと思うんだよね。もちろん、スクワットさせた可能性はあるけど」
「……多分、倒せていないだろうな。あそこに死体が残っていたってことは」
倒したら探索はするだろうし、見つけたら埋葬ぐらいはするだろう。
「ふむ……まぁ私達は五年ごとに移動してるからかなり大部分を見逃してる可能性はあるけど、どうやって発見したんだろ」
「そもそも、本当にヨクパパは見つけてたのか? 脅威があるなら地図とかと一緒に書き残してたんじゃないか?」
「……ヨクパパ……。いや、親父がここに来たのは間違いないし、竜を避けて進んだのも間違いない」
「じゃあなんで書いてないんだ?」
「……なんでだろうか」
あの場所に侵入したやつ対策? いや、そんな隠さなければならないような情報ではない。
それこそもっと重要な情報はいくらでもあるはずで……。
「いや……まさか……ツツが裏切った? 親父が書いていた文をわざと削除して渡したとか」
「月がそれをする意味があるかよ」
「……まぁ、そりゃそうなんだよな。……とは言っても、現状のところ他にそれっぽいのあるか?」
「他にあそこに入ったやつはいないのか?」
「俺が来る以前は分からないが、おそらく初と初の父親……そのあとは俺、ウド、新子、星野とツツってところだな」
「ウド?」
「ああ、けど、人工迷宮のURLも教えてないし、パソコンのパスワードも知らないし、そんなに長い時間いたわけでもないから気にしなくていい」
同じ理由で星野と新子も書き換えるのは不可能だ。
初もパスワードを知らなかったし、そもそもそういうことをする理由があまりにもない。
消去法で言えばツツになるが……。
「西郷の母親の方は? 家族なら知っててもおかしくないだろ?」
「……ああ、たしかにそうだな。でも、もっと前に死んだ人だしそんなことをする目的も……」
「目的は分かるはずないだろ。だが、書き換えがあったなら消去法で西郷の母親だろ」
……まぁ、そうか。そうなのだろうか。
「そんなことより、あのドラゴンをどうするかって話だ」
「……囮以外の作戦は思いつかないな」
「いっそ強引に突破するか? やばそうなら窓に突っ込んだら一応逃げられるわけだしな。また逃げた先にもいるかもしれないが」
「……事前に内側から窓を全部外しておくとかするか。逃げやすいように」
俺がおにぎりを齧りながら言うと、星野は頷く。
結局力づくか……まぁ、生態も分からないやつを相手に詳細な作戦をなる方が間抜けか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます