星野×月

 話し合いは比較的簡単に進んでいき、決行は地図や資料が見つかり次第ということに決まる。


「じゃあ、私もその資料とか見せてもらっていいの?」

「……ああ、一応言っておくと持ち出しは禁止だからな。外部に漏れると困る」

「記憶力いいから見たら全部覚えちゃうけど、平気?」

「外部に漏洩させたり、初の不利益になるような行為は一切禁止だ」

「ん、まぁ裏切るなってことでしょ。大丈夫、ヨクくんのことは裏切らないよ」


 俺の……とわざわざ言うところが信用ならないんだと思いつつ、ツツは初に連れられて研究室の方に向かう。


 星野はその後ろ姿を見ながら軽く指差す。


「俺達も手伝う方がいいんじゃないか?」

「いや、メインに調べるのはパソコンだから二人いれば十分だろ。それより、迷宮に突入することは決定してるからその話を俺たちはしよう」

「つっても、俺がまだスキルをもらってないからある程度は行き当たりばったりになりそうだな」

「いっそスキルをもらわない方がいいんじゃないか? 俺みたいに弱体化するハズレスキルもあるし」


 俺がそう言うと新子は首を横に振る。


「いや……普通ないよ。というか、長いこと生きてきてヨクくんで初めて見たよ、弱体化するスキルなんて。基本的にいいことしか起こらないものだから、取る方がいいと思うよ」


 本当かぁ? と、俺が新子を眺めていると、新子は真剣そうな表情で口を開く。


「それで、どうする?」

「どうするってのは……?」


 新子の問いに星野が言葉を返すと、新子は俺へと目を向けてぽすぽすとソファに座るよう促される。

 改まった様子の新子は、俺を見て「あっ、もう察してる?」と尋ねてくる。


「まぁ、なんとなくは。……新子さんの別の仲間に介入してもらうかどうかって話ですよね」

「すごい、本当に察してたんだ」

「この三人のときに切り出すってなると、まぁ」


 星野は俺達の会話に着いていけていない様子で、新子はそれを察して説明をしていく。


「私は長生きしてるし、一応現役の探索者だから他にも仲間がいてね。こういう探索者の不始末って話だったら協力を頼めるの。でも、問題として……当然ツツちゃんか狙われた経緯やここについてもある程度は知らせないと納得はしてくれないわけだ」

「優秀な仲間が一時的に増えるから、安全性は増すが……代わりに実質的な見張りがつく。俺としては初の研究の大きな妨げになるからあまり歓迎は出来ないが、ツツのしたいことは「真っ当な探索者としての活動」と言えるからな。さほど問題にならないはずだ」


 新子と俺の説明を受けた星野はスナック菓子の空袋を握りつぶす。


「……なんで俺に聞くんだ? 月に聞くべきだろ」

「初もツツも、自分の幸せを望んでいないだろ。だから、聞くのは幸せを願っているやつだと……新子は思ったんだろ」

「ヨクくん、心読むの恥ずかしいからやめない?」

「ごめんなさい」


 心は読んでないけどな。

 星野は自分自身のペースを取り戻すように息を吐いて、それからツツの置いていったコーラを手に取る。


「まぁ、友人、友達、幼馴染として……あまり辛い思いはしてほしくないってのは確かだ。月は……まぁ、ああ見えて繊細でさ」

「繊細には見えないが……」

「……あの時、月が笑ったのは、お前が悲しそうにしてたからだぞ。嫌がられるように振る舞って、ヨクが自己嫌悪に陥らないように……。まぁ、俺の推測だが」


 推測というか願望だろ……。到底、そんな殊勝な奴には見えない。星野は好みのタイプの趣味が悪いな。見た目は可愛いと思うが……。


「それで、どうする?」

「他の奴の介入はナシだ。……ヨクに、月が狙われている理由を俺から話さなかっただろ」

「ああ、ツツから聞けってことだったな」

「アイツ、自分の生い立ちを気にしてんだよ。それを話したくないから、大して優秀でもない俺とかと一緒に試験を受けたんだ。知らない人とパーティを組むには迷宮に潜る理由とか聞かれるだろうからな」

「……まぁ、若い女の子が危険を犯してまでってなるとな。それで聞かれないように星野ともう一人の女の子に声をかけた……と」


 星野は首を横に振る。


「いや、俺は俺から月が心配だから手伝うって申し出た。胸の手術痕もサッと見せたように思えたかもしれないけど、アイツ、風呂とかでそれが見られるのが嫌で小中学生の頃は修学旅行とか行かなかったしな」


 ツツの胸元のことを思い出してガリガリと頭を掻く。


「……そうか」

「アレは、それなりに勇気を出してしたんだ。巻き込んだ以上、月なりに誠実にやろうとしたんだろう」

「……だから、あまり信用出来ない連中に頼って月の秘密を知らせたくはない。もちろん、止めることは出来ないけどな」

「いや、俺も……というか、初の目的からして不用意に協力者を増やすのは良くないからな。手段として考えておきはするが、避けたいところではある」


 俺と星野の会話を聞いていた新子は生暖かい目線で俺達を見ていた。


「いやぁ、微笑ましいね、好きな女の子のために頑張る男の子は」

「は、はあ? 別に月のことなんか好きじゃねえし」


 いや、星野……あれだけ語っておいてその反応は無理だろ。


「それで星野、後でこっちと合流するか? 色々と都合がいいだろ」

「ホテルに泊まるの金かかるだろ。ここ、たくさん部屋あるし貸してくれ。布団とかこっちに運んで寝る」

「いや、それは確かに連絡は取りやすくなるけど……ここに一人で置いとかせたくないんだよなぁ。希少なものとかあるし」

「URLを知ってたら入れて鍵がないんだから、何か盗むつもりなら一緒だろ」

「まぁ、それもそうなんだが……あんまり変なもの弄るなよ? あと、初の許可も得てからな」

「おう。あ、でも月はそっちのホテルに泊めてやってくれ。案外お嬢様だからこの中で寝泊まりするのはキツイだろうし、襲われたばっかで一人でいさせるのもな」


 星野の言葉に頷いてから、寝るところがないことに気がつく。


 俺はソファで寝てもいいが、初が俺と一緒でないとちゃんと眠れないのでソファだと手狭すぎる。


 かと言って初と二人でベッドで寝ると、ツツと同じ寝室で寝ることになるが……それは年頃の男女として非常に危険だろう。


 新子にもう一室取ってもらって……初と俺、ツツと新子みたいに部屋を分けるのが一番だろうか。

 でもそうするとかなり値段が高くなりそうだな……。

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