作戦会議×バレバレ
ツツが買ってきたジュースを手に取ろうとすると、ツツは「あ、ヨクくんはこれね」と炭酸の入ったコーヒーを渡される。
……これ何?
俺はそれを机に置いてから近くにあったホワイトボードに目を向ける。
それからホワイトボード用のペンを手に取り、それが使えることを確認してからゆっくりと線を引く。
「目標……というか、落とし所はどこにする? まさか敵対する奴は全員殺す、なんてことは出来ないしな」
「んー、まぁ、正直な話、探索者って荒くれ者が多いし、特にお金で雇われて違法行為をしますって人達とマトモに交渉は出来ないよね。警察に捕まえてもらうのが一番なんじゃないかな」
ツツの言葉に俺と新子が頷く。
「俺もそれが一番だと思う。下手に反撃して感情的な敵対をして報復を受けるみたいなのが一番不毛だ。相手の仲間を全員捕まえるとか、全員倒すみたいなのは現実的じゃないし、現実的なところで理想的な解決は、俺たちの存在がバレずに警察がアイツらを捕らえる、という形だろう」
俺の言葉を聞いた星野が、ツツの買ってきたスナック菓子の袋を開けながら俺の方に目を向ける。
「それ、もう俺達の出る幕じゃないんじゃないか? 無理に突っ込まずに警察任せでいいんじゃねえの?」
「いや、完全に警察任せだと多分逃げられる。警察は迷宮部門もあるそうだが、本職の探索者に比べては幾分か劣るだろうし、特に今回は警察からしたら未発見エリアで、敵からしたらホームだ。それに元々警察に追われる予定はあっただろうし、安全に逃げる算段はついてるだろうな」
「じゃあもう逃げられてるんじゃねえの?」
やっぱり星野は頭が特別に良いというわけではないが冷静だな、警察任せにしようという案も特別なものではないが頭に血が上っていたら案外思い浮かばないものだろうし、逃げられているという指摘も同様だ。
頭の良し悪し以上に、その冷静さは頼りになる。
「逃げてはいるはずだが、どこに逃げたか、が問題だ。名前も顔も割れていて話はすぐに広まるのに一般的な探索者が出入りしているような迷宮の出入り口には踏み込めないだろ。よほど過疎な場所で仲間が手引きして逃げるか、あるいは他の探索者に知られていない迷宮の出入り口か」
「……それを突き止めれば地上の拠点を見つけることが出来るかもしれないか」
「ああ、分の悪い話じゃないと思う」
星野は少し考える仕草を見せたあと軽く頷く。
「つまり、警察が無理そうなところを俺たちでカバーするってことか。通報は……警察に直接ってわけにはいかないから、探索者試験のやつ越しにすればいいか」
俺がその言葉に頷くと、星野はスナック菓子を手に摘みながら周りを見回す。
「これ、チーム分けした方がいいな。五人でゾロゾロと平日に歩いていたら目立つし、特に月は狙われてる立場からして顔も知られてるだろうしな」
「まぁそうだな。戦力とかを加味すると……俺と星野と……あと新子さんの三人で探索・調査、初とツツがバックアップってのが妥当か」
俺の言葉を聞いた星野は新子の方に目を向けて明らかに顔を歪める。
「ええ……いや、一番置いていかないとダメなやつだろ」
「あ、あー、いや、まぁそういう反応になるよな。新子は……その、不死身でな」
俺がそう言うと星野は「はぁ?」といった表情を浮かべ、ツツは納得したように頷く。
「ああ、どおりで妙に落ち着いてると思った。おいくつなの?」
「ん、215歳だよ」
「ヨクくん騙されてるよ」
いや、まぁそういう反応になるよな。
「まぁ、何にせよ新子は初の親父の知り合いだったことは間違いなくて、少なくとも成人はしてる。不死身かどうかは確かじゃないが、多分普通の方法だと死ぬことはない」
何せ、一滴にも満たない血液で銃弾で撃たれた後や全身の裂傷や火傷が治ったうえに虫歯まで完治するという異様な回復力だ。
そんなものが全身を流れているとなると、到底死ぬとは思えない。
「……つっても、こんなに小さく見える子を危ないところに連れていくのはなぁ」
「平気だよ。頭潰されたことがあるけど、治るのに一秒かからなかったし」
「まぁ、そういうことだ。むしろ多分星野が一番弱いと思うぞ」
「銃が効かないふたりと比べんなよ……」
いや、俺はだいたい避けられるだけで当たったら普通に効くぞ。
ホワイトボードに「探索組」「後方支援組」とふたつに分けて書き、探索組の方に「目標:本拠地を見つけて探索者試験の方に通報」と付け加える。
「あの、兄さん、後方支援というのは……えっと、一体何をするんでしょうか?」
「今から意見を出すところだけど、まぁ、さっき話していたように侵入経路を探したり、逃げた先に当たりを付けたりがメインだな。あと、出来れば迷宮の地図や魔物について調べておいてほしい。他やっておいてほしいこととかあるか?」
ツツは突入したかったのか少し不満そうな顔をしながらも「なんでもするよー」と俺達に言う。
星野はわざとらしくツツから目を逸らしながらゆっくりとなんでもない風を装って話す。
「あ、あー、そうだな。しばらくは外食とかを控えた方がいいんだろうし、まぁ、ほら、飯とか頼めたら助かるな……とか?」
星野…………この状況をいいことに好きな女の子の手料理を狙っているな。
俺は正直なところ、これから、いつでも初の手料理を食べることが出来るからどうでもいいところだが……男同士の情けだ、隣の部屋に大量の保存食があることは黙っておいてやろう。
「ん、料理? 別にデリバリーでも良くないかな。それより、引っ越しするのにこの場所借りていい? ここに物を置いてから引っ越し先で取り出せばすごく楽そう」
「まぁツツちゃん、ほら、みんなで同じ窯の飯を食べるのもいいことだと思うよ。私達が今泊まってるホテルにはキッチンも付いてるからお料理も出来るし」
新子は星野の様子を察したのか援護してくれる。
よかったな星野、みんなにツツへの好意がめちゃくちゃバレバレだけどよかったな。
……いや、でも俺は一緒に飯を食いたくねえな。一人だけ別室で食わせてもらうか。
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