作戦会議×ウタッター
「じゃあ、とりあえずウタッターのグループメッセージで二人にも連絡入れるね」
「えっ、ウタッターやってるんですか」
「おばあちゃん扱いしないでよ、若者のえすえぬえすぐらいしてるさ」
いや……若いとか老けてるとかじゃなくて、五七五七七でしか投稿出来ないようなSNSって不便だろ。……マジで流行ってるのか? この世界は大丈夫なのか?
「というか、グループメッセージ?」
「えっ、うん。昨日作ったやつ」
新子はそう言ってから「あっ」と声を上げる。
「ヨクくん誘うの忘れてた」
「……あの、一応ツツと星野は俺の関係で仲間になったのに……俺だけハブられてるの……」
「わ、忘れてただけだって。ごめんね?」
作ったっきりで何の投稿もしていないウタッターのアプリを開くと、一応フォローしていたミナの投稿が画面に映る。
『日が踊る 陽気の中の 桜の根
花は見れぬよ 君を想えば』
……歌ってんなぁ。思ったよりも歌ってるな……ウタッター。
新子にグループに誘ってもらうと、早速グループの中でメッセージが投稿されてピコンと音が鳴る。
『君を見て 言葉を探す 手の中で
現と二度目 はじめましてを』
ツツ……歌うな。いちいち歌うな。
というか、これ非公開のグループメッセージでさえ五七五七七でしかメッセージを打てないのかよ。不便すぎる。
そう思っていると、またピコンと鳴る。
『隣り見て 移ろう色を 独り占め
電気に映らぬ 熱の色合い』
初、頑張って書き込んでいたのは見ていたが、このSNSは出来損ないだ。マトモにコミュニケーションが取れない。
そう思っていると今度は星野からメッセージが来る。
『このアプリ 使いにくくね やっぱりさ
もっと普通の アプリ探そう』
やっぱり星野さ真面目で安心するな。よかった、この世界のおかしさに気がつくのは俺だけじゃなかったんだ。
『俺もそう 思うこのアプ リは使い
にくいからやめ ようあああああ』
俺が書き込んだ瞬間俺のメッセージに『バッド』がつけられまくる。
ダメか、短歌じゃないのがそんなにダメか。
スマホから目を上げると、したり顔の新子が俺を見て頷く。
「あのねヨクくん、短歌ってのは、ここで歌うものなんだよ」
新子は自分の小さな胸を指して言う。胸……のことじゃないよな。肺がないと歌えないということか。
「あの……とりあえず、別のアプリにしません?」
「別にそれでもいいよ? 七七七五調のアプリとかどう?」
「都々逸は短歌以上に不慣れで打ちにくいですね。というか、そんな不便の極みみたいなSNSってこの世に必要ですかね」
もう初と二人で使ってるトークアプリを使うように提案しようかと思ったが、このアプリはわざわざ初とふたりきりで使おうと決めたやつだから、別のアプリを提案するか。
そう思ってスマホのストアで検索すると、一番上にウタッター、二番目にドドイッターという同じ会社の七七七五調でしか投稿出来ないアプリが表示される。
……人気あるのやめてほしい。
「あー、というかさ、普通に集まった方が良くないか? このアプリに限らず、普通に文章を送り合うのは時間がかかる。本当に探索するなら用意も話し合いもしっかりすべきだろう。というか、そもそも警察とか探索者の組織が捜査してるだろうから中に入るのは難しい」
「んー、私が頼んだら普通に入れると思うけど」
新子はこともなさげにそんなことを言う。そういえば探索者資格を友人に頼んだら偽装できるとか言っていたし、探索者として長期間活動していたらしい実績を鑑みれば、中に深い友人がいるのだろう。
だが……。
「いや、それはなしだ。ツツを狙ってる奴が組織の内部にいるかもしれないし、その場合騙し打ちや挟み撃ちを受ける可能性が高い」
「そんな短慮なことするかな?」
「短慮な奴だから試験中に殺そうとしたんだろ。最低条件として、探索者と警察に見つからずに潜り込めること、それがないと危なっかしい」
俺がそう言うと新子は腕を組んで難しそうな顔をする。
「んー、人がたくさんいるところの目をすり抜けていくなんて、それ用のスキルがないと無理じゃないかな」
「まぁ難しいかもな。でも、リスクは減らさないと……」
と、俺が言うと初が不思議そうに小首を傾げる。
「迷宮は入り口がいっぱいあって中で繋がってるんですから、その試練の洞穴に近い迷宮から侵入出来ませんか?」
「いや……繋がってる迷宮と繋がってない迷宮があるだろ」
俺がそう言うと初はコクンと頷いたあと、近くに置いてあったレジ袋からトランプを取り出してベッドの上に並べ、白黒のジョーカーと赤いジョーカーを俺に見せる。
「迷宮の仕組みとして複数の深層があって、深層をクリアすると願いが叶います」
それから赤いジョーカーの下にダイヤとハート、白黒のジョーカーの下にスペードとクローバーのカードを並べる。
「それで深層より浅いところに中層、中層より浅いところに浅層という具合で、同じ色じゃないと中で繋がっていないし、繋がっていても場所が遠かったり行きにくかったりするわけですけど」
「ああ、どこで繋がってるかは実際に行かないと分からないから、徒労になるだろ」
まさか迷宮をしらみ潰しに探すなんて無理は出来ないしか。と、思っていると、初はおずおずと口を開く。
「……いえ、分かる……かもしれません。どこで迷宮が繋がってるか」
俺と新子が目を合わせて驚くと、初は気弱そうにトランプを片付けながら話を続ける。
「時々、父が研究してるのを見ていたんですけど、父が部屋の中でパソコンを弄りながら「新しい迷宮を見つけた」と喜んでいたんです。そのあと、実際に迷宮に実地調査に行ってました」
「……パソコンで新しい迷宮を見つける……? 何かの法則性があるから、そこ法則から読み解くことが出来るということか」
「はい。なので父の研究を調べたら内部で繋がっている迷宮を見つけるための法則性……あるいは内部の地図情報自体を見つけられるかもしれません」
初の話を聞き少し考える。
確かに……それなら可能だし、逃げ道が複数用意出来ることや迷宮慣れしていて回復能力のある新子がいることを考えると安全か。
「……いけるな」
「じゃあ、いくことに決定する?」
「ああ、いや、敵の正体をツツから聞いてからだな」
「じゃあ、どこかで待ち合わせして……」
「いや、電話をかける」
「五人で通話は結構混雑しないかな」
新子に尋ねられるが、俺は首を横に振り、スマホに人造迷宮のURLを打ち込む。
「ここで話そう。遠方にいても、中でなら対面で話せる。メールやSNSで伝えると情報が残るから電話で口頭で教えることにする」
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