第74話 もう一人の自分




 憑き物そのもの――ヤツらの隣には、俺と同じテイマー姿の男がいる。


 顔も同じ日本人の顔だ。ということは、アイツも同じ異世界召喚された被害者だ、が。

 憑き物といるということは、ダークエルフの村の襲撃や、各村の襲撃に関係している黒幕……のハズだ。


 もしかしたら違うかもしれない。俺の勘違いという可能性も、ゼロじゃない。

 だからそれをこれから確かめる。


「名乗りは後回しだ、要件だけ話す。各村々を憑き物で襲わせたのはお前か?」

 アイツはさっきから無表情だ。何を考えている?


「……そうだと言ったら、どうしますか?」

 あいまいな返しをしやがって……俺を試しているのか?


「悪いがお前を……お前たち倒させてもらう」


「あなたは僕と同じ、この世界に連れてこられた日本人ですよね?」


「だが倒す。お前はやり過ぎた」


「やり過ぎないと僕の目的は達成できません。悪いですがここでやられるつもりはありませんよ」


「……目的だと? 俺たちを召喚した国に復讐するんじゃないのか?」


「半分正解ですね。恐らく同郷のよしみです、僕の目的を教えておきましょう」

 話の流れからアイツが今回の騒動の犯人で間違いない、が……理由はなんなんだ?

 復讐が半分なら、もう半分は?


 ……今すぐ倒すべきかもしれないが、その話を聞いてからでも遅くはないか?


「……僕には恋人がいるんですよ。一緒にこの世界に召喚された恋人が。その恋人があの国に捕らわれてしまっているので、助け出すのが僕の目的です。どんな手を使ってでも」


「…………そうかよ、奇遇だな。俺もどんな手を使ってでも、元の世界に帰るつもりだ」

 こいつは面倒くさい話だな。目的の為なら手段を択ばない、俺と同じタイプだ。

 

「それならどうです? 同じ日本人を助けると思って、僕に力を貸してくれませんか? 三人なら帰る手段も早く見つかるかもしれませんよ」

 この異世界に拉致された日本人同士で手を組み、この世界に復讐する……そういうルートもあるかもしれない。


 俺がアイツに手を貸せば、元の世界に帰る手段を見つける過程も、アイツ言う通り大きく短縮できるかもしれない。


「……そうだな、お前の提案に乗るのが手っ取り早いかもな」


「主……」


「キョータロー……」


「主様……」


「主さん……」


「では――」



「だが断るッッ!!!!」



「……」


「言っただろう、お前はやり過ぎた。だから俺はお前を倒す。そして帰る方法を探す!」


 アイツは信用できない。そもそも恋人という話が本当かどうかも怪しい。

 同じ地球人の日本人だからといって、必ずしも助け合う必要はない。

 俺と同じタイプのどんな手も使うヤツだ。最後に俺を切り捨てる可能性だってある。


「何故です? 所詮僕たちはこの異世界では異物ですし、僕たちにとってもこの世界の人々がどうなろうと、構わないと思いませんか? だって僕たちをこんなところに棄てた奴らですよ? それに力を持つ僕たちがあの国を潰さないと、次々に同じ世界の人々が、この危険な世界に連れてこられてしまうかもしれません。あなたはそれを黙って認めるんですか?」


「勘違いするな! 俺だってあの国には思うところもある」


「でしたら――」


「だが! お前は無関係なこの森の獣人たちを殺しすぎた!!」


「あなただったどんな手を使ってでも、元の世界に帰るのでしょう? でしたらこの森の獣人を殺して力を手に入れるという方法も、あなたのやり方ではないですか?」


「そうだな。ああそうだ。お前の言う通りだな」


「そうでしょう。でしたらここでお互い争うよりも、協力した方が――」


「だが断ると言っただろう!!」


「……何故です?」



「俺がお前のやり方を気にくわないと思っているからだ!!!」



「……あなたはどんな手を使ってでも、向こうに帰るつもりなんでしょう? その言葉は嘘だったんですか?」


「それでも……それでも越えちゃならない一線ってのはあるだろうが!」


 どんな手を使ってでも帰るという言葉は嘘じゃない。


 場合によってはどんなあくどい手を使ってでも、俺は元の世界に帰る。


 それでも俺には、俺の中にある越えてはいけない一線を越えるつもりはない。


「ふぅ……そうですか、交渉決裂ですね。あなたなら感情的ではなく、もっと理論的に話せると思ったんですけどね。本当に残念です……」

 アイツは残念そうにしているが、演技……だよな?


「最後に名乗っておきますね。僕の名前は王城紘一。王の城に、八紘一宇の紘一です。恋人の名前は御霊勝子。神の霊の御霊に、勝利の子と書いて勝子です。もし見かけたら助けてあげてください。それでは僕は行きますね」


「おいっ、どこに行く気だ! 逃がすつもりはないぞ! アトラ!!」


「逃がさないわよぉ!!」

 かざしたアトラの手から黒い球が発射され、ネット状に広がる。今から避けても避けられない、捕まえ――


「何!?」


「どういうことぉ……?」


「オイオイ、やっこさん消えたぞ……」

 アイツと憑き物の体が黒い液体に変わったと思ったら、その黒い液体も消えて姿かたちを見失った。


(僕は先を急ぐので、これで失礼します。そうだ、もし帰る方法を見つけたら教えてさしあげますし、僕はあなたとは戦いたくありませんので、僕の邪魔はしないでくださいね)


 なんだ!? 脳内に直接声が……?!


(バ、イ、バ、イ)


 …………。


 ……。


 ……もう何も言ってこないってことは、ここにはいないのか。


「……主様、今の聞こえたか?」


「お前たちも聞こえたのか」


「聞こえたわぁ……」


「念話の類だな。私たちにも聞かせたのは、何か意味があるのかもしれない」

 俺以外にも、アスラや霞たち全員にも届いていたのか。


 ……アイツは王城紘一と名乗っていたな。


 アイツのやったことは否定はするが、理解はできる。


 アイツは非道の道を選んだもう一人の俺だからだ。


 場合によっては立場が逆転していたかもしれない。


 どんな手を使ってでも元の世界に帰る。俺も同じだからだ。


 状況によっては、俺もアイツと同じことをしていたかもしれないということは、否定できない。


 だから俺はアイツを理解はできる。だが認めはしない。


 無意味に無実の人を殺すのは、俺の中の絶対に超えてはならないラインだ。


 アイツは憑き物という凶悪な力を手に入れたにも関わらず、それをただ殺しの為に使っていた。


 同じテイマーだったなら、魔物をテイムして、憑き物を憑かせて強化し、ひたすらに育成していく。そんな簡単なことは子供だって気づくだろ。


 ……いや、それに気づかないほど、アイツは追い詰められていたのかもしれない。


 恋人という話が本当なら、ここに棄てられたときのやつの心境は間違いなく正常ではなかっただろうな……。


 あるいは、あれが一番強力な方法だったのか……。


「……主よ、さっきから無言で立ったままどうしたのだ?」


「……」

 いきなり顔を覗いてくるなよ霞……。


「悪い。アイツのことを考えていた」


「それで主さん、どうするんだ?」


「決まってるだろ、アイツを止める」


「逃げられたばかりじゃぞ」


「逃げたなら追うだけだ。ここからは気遣い無用でアスラに乗って移動していくぞ。もう悪目立ちとか言ってる場合じゃなさそうだからな」


「そうねぇ……逃げられたままじゃ気が収まらないわぁ……!」


 俺はこいつらと出会えたから、道を踏み外さずにいられた。本当に運が良かった。

 だからこいつらに感謝もしてるし、幸運の女神にも感謝している。

 

 だから幸運の女神、最後まで俺を見守っていてくれよ。


「よし、それじゃあ人族の街目指して急ぐぞ!」


「えっ、もう暗くなりますよ……?」


「……行けるところまでいくぞ!」


「おー!」

「「メェー」」


 こうして俺たちは砦跡地を出発した。


 王城紘一、待っていろ。必ず俺がお前を倒す。

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レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~ 裏影P @UrakageP

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