第62話 例外





 <万物進化>スキルは伏せつつ、俺がこの世界にきてからのことを話した。

 

 エリザベス、アルについては、あの状態で仲間になったと説明しておく。

 <万物進化>については、あまり簡単に明かすべきスキルではないような気がする。効果が効果だからな……何言われるかわかったもんじゃない。


「なるほどなぁ…………ってなるかい!!」


 やっぱり納得はしないか。最初にアスラの紹介を失敗したな……。


「何かダメだったか?」

 シルフがテーブルを叩いて怒鳴りだした。どうやら俺の説明では納得できていないらしい。

 シルフの隣に座っている村長が怯えてるだろ、かわいそうに。


 この家の主である村長は狸人族で、獣に近い体をしている二足歩行の獣人だ。


「なんでただの人族がウンディーネと天災のヴリトラをテイムできてるんや! おかしいやろ!! 大精霊がテイマーにテイムされたなんて初めて聞いたわ!!」


「まぁ確かにそうだな」

 俺も未だに疑問なんだが、俺がテイムできるってことは、他のテイマーもウンディーネや他の大精霊、ヴリトラをテイムできるんじゃないか?

 

 だがシルフの口ぶりから、大精霊がテイムされたことは今まで一度もなかったらしい。そうなるとやはり、<万物進化>スキルの影響か?


 いや、ダークエルフたちは元は魔物で、そこから進化して今の姿になっているから、<万物進化>スキルを通じてテイム状態にすることができたわけだが、ウンディーネの霞は違う。

 水の女神の眷属という出自だ、大精霊であって魔物というカテゴリーには入らない……?

 それともウンディーネも魔物なのか……? こればっかりはこの世界を作った神様に聞いてみないとわからんな。


「お前も主のテイムミートを食べれば、私たちの仲間になれるかもしれないぞ?」

 霞が不敵な笑みを浮かべながらシルフを誘っている。

 戦力としてはあるに越したことはないが、このシルフは既に護るべき者たちがいる。そんな相手をテイムして連れて行くのはありえない。


「冗談言うなや。ウチはここでこいつらを守らなアカンのや」


「そうだったな。今言ったことは忘れてくれ」

 シルフの返しに霞は表情を和らげて返した。霞も本気で言っていたわけではないのが分かる。


「……あぁ、シルフを連れて行きたいんなら、ここから南に行ったところに、霞みたいに暇してるやつがおるから、行ってみたらどうや?」

 少し驚きだ。霞以外にも似たようなやつがいるもんなんだな。いや、護るべきモノがなければ暇なのかもしれないない。


「私と同じようなやつなら、きっとそいつも変り者なんだろうな」

 霞は自分が変わり者だとしっかり自覚しているようだが、霞みたいなシルフか……。

 どんな奴だか興味はある。


「そいつは女なのかしらぁ……?」

 アトラが目を細めている。隣から威圧を感じるような気がするが、多分気のせいだろう。


「いや男やで。ウデは確かやけど、掴みどころのないやつやからなぁ」


「そっ」

 男と聞いてアトラは興味を無くしたようだ。

 

 変わり者のシルフは飄々としたタイプか、昼行燈タイプか、あるいは道化タイプなのか。掴みどころがないって聞くとその辺りを思い浮かべるが、どれだったとしても変な奴なのは変わらないな。


「そうか、情報ありがとう。それじゃ行ってみるか」


「ゆくのかえ、主様」


「この先何が起こるかわからないしな。仲間が多いに越したことはない。ま、仲間になってくれるかはわからないが、行くだけ行ってみようぜ」

 アスラに行くのかと聞かれたが、一人でも強者を仲間にできるなら、今は行くしかないだろうさ。

 もうこの際一人二人増えたところで誤差だ。何より一番大事なのは、俺や仲間たちが死なないことだ。

 霞と同じ大精霊が仲間になってくれれば、戦力的にはかなり楽になりそうだが……果たして仲間になってくれるかどうか。


「一戦交えることも覚悟したほうがいいかもしれないがな」


「主は戦うつもりか」

 霞は面白そうに笑みを浮かべている。戦いたのか?


「いや、もし仲間にするなら、俺たちの力を見せてみろってのがお約束だろ?」


「意外と霞みたいに、すんなり仲間になってくれるかもしれぬぞ?」


「だといいがな」

 霞と死線を超えるような戦いをしたアスラがそう言ってもな……。

 

 だがアスラの言う通り、霞やアトラみたいに戦わずして仲間になってくれれば楽だが、そんな甘くはないだろう。霞もアトラも例外中の例外と考えるべきだ。


「大丈夫よぉキョータロー、何があっても私が守るわぁ」


「お、おう……」

 アトラは心強いんだが、やっぱ怖いな。

 いつかこの好意が暴走しなきゃいいが……。


「と、そうだ。一応聞いておきたいんだが、異世界に行く方法を知っているか?」


「知らん」

 シルフは即答。村長も首を横に振っている。そうだよな。簡単に見つかるとは思っていないし、想定内だ。


「そうか。それじゃあ俺たちはそろそろ行くとする。世話になったな」


「待て待て、そろそろ昼時やし、飯食ってけや。他のやつらももう少し休ませてやったれ」

 連れてきた獣人の女たちか……まだ村まで行っていないやつらもいるし、長い道のりなる、か……。

 俺一人ならガンガン進みたいが、ちゃんと村に返してやると決めた以上、無理はできない。


「……わかった。その言葉に甘えさせてもらうとするか。用意ができるまで村の中を見学させてもらう」


「用意できたら呼ぶから、それまで自由にしててくれてええで」


「気遣いに感謝する」

 話が終わったことで、席を立ちドアまで歩く。

 こっちに飛ばされた当初は余裕もなくて大変だったが、今はちょっとした観光気分で楽しめるくらいの余裕はできた。

 

 これも仲間たちが増えたおかげか……。

 

 と、ここはダークエルフの村とは違う村だ。何か面白い物があればいいな。

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