第45話 アスラのもう一つの姿 ~霞の本領発揮~




 ◇   ◇   ◇



 ウンディーネの私ですらここまでの力を発揮させるとは……。


 これは、思っていたよりも凄まじいな。


 主のスキルによって私たち従魔が強化されているわけだが、想像以上に力が漲っている。


 あの憑き物がついた地竜ですら、一発でかなりの距離吹き飛ばしたくらいだ。


 だが……主の消耗も激しいようだな。言っていた通り、短期決戦でカタをつけるしかあるまい。長引けば主の身が持たないかもしれない。


 まさかカシウスというダークエルフ以外にも、地竜が六体、しかも憑き物付きがいたのは誤算だったが、我らの力をもってすれば倒すことは難しくないだろう。


 ……そう思っていたのだがな。あの一撃で仕留めたと思ったが、私が殴り飛ばした憑き物地竜はまるで無傷と言わんばかりに戻ってきた。思っている以上に強化されているようだ。


 これは長引いてしまうかもしれん。主は……片膝をついている。意識も混濁してるようだな。非常にマズイ。


 あの様子では、自力でスキル効果を止めることはできそうにないな。気を失う前に魔力が枯渇して死ぬ可能性がある。


 だが手立てがないわけではない。


「全員、惜しみなく全力を出せ! 主にこれ以上負担をかけさせるな!!」

 私の言葉を理解したアトラ殿たちの雰囲気が変わった。

 普段主の前では見せないような、凶暴な側面を見せ始めている。これは私も負けてはいられないな。


「フフッ……」

 ……こんな状況なのに楽しんでしまっている私は、どこまでも愚かなウンディーネなのだろう。

 大丈夫、主を死なせるようなマネはしない。早々にケリをつけようじゃないか。


「――神気開放」

 水の女神オケアノス様、どうかその御力をお貸しください――



「ん……? フフッ、そうか――」

 祈りと共に魔力の蓋を外した私に、膨大な魔力と神気が流れ込み、出ていく。

 普通の魔物なら、急な魔力の増幅に耐えられず膨張して暴発するが、女神の眷属であり、ウンディーネである私はそうはならない。


 そしてこの膨大な魔力を、決戦スキルによってできた繋がりを利用して、主に少しずつ流していく。

 これで主の魔力の枯渇を防げたはずだ。もう暫くは主ももつだろう。


「……ほう」

 アスラも本領を発揮したのか、私に負けじと周囲の魔力を取り込み始めた。

 私の神気が混じった魔力も取り込んでいるが、アスラが何をするのか楽しみだ。


 天災のヴリトラと言われていたアスラだが、その本質は食欲からくる暴食だ。

 突如現れ、誰にも防ぐことは叶わず、ありとあらゆるモノを喰らい尽くす存在。それ故に天災のヴリトラと言われている。


 フッ、ここでも魔力を喰らい尽くすつもりだろうか。主の前では決して見せなかったその姿、実に素晴らしく、美しいぞ。


 そして、魔力を取り込むのをやめたアスラが眩く光り出したが、この光は――


「ふぅ……この姿になるのもいつぶりかのう。もう二度となれないと思っていたぞ。これも主様のおかげじゃな……いや――」

 女人の姿に身を変えたアスラは、そう言いながらこっちを見てきた。


「それがお前の真の姿か?」

 言葉を話しているということは通じるはずだが、アスラだった女は答えてくれるか?


「これも、わらわの姿よ」

 白く肩まで伸びた髪に紅白の和装姿、整った顔立ち。実に主が好みそうな姿だ。


 体は小さくなったが、帯びている魔力量は蛇姿のときよりも計り知れないほどに濃い。

 進化……とは違うように見える。アスラも神気を纏っているようだが、私の神気とは性質が違うように見える。


「もっとも、お前さまの神力が流れ込んできたお陰もあるのであろう」

 なるほど、私の神力を取り込んだことで、アスラは姿を変えることができたのだな。


「グォォォォォ……」

 おっと、アトラ殿たちによって倒されていた憑き物地竜たちが、また起き上がってきたか。

 

「もう起きたのか? やはり憑き物はしぶといのぉ」


「私たちで二体ずつ、やれるな? アスラ」


「愚問よ」


「ならばよし、いくぞ」


 ――そこからは蹂躙だった。


 大人が赤子の手をひねるように、二体の憑き物地竜はなすすべなく一撃の拳のもとに消滅し、経験値が流れ込んでくる。

 

 憑き物地竜は決して弱くはない。この森では最上位に入る存在なのは間違いない。


 だがそれ以上に、この私が神気を解放した上に、予想以上に主の決戦スキルの力が素晴らしかったのだ。神気開放したときの違和感はそれだった。

 

 確かにこのスキルは決戦スキルと言われるだけあって、それ相応の力を持っているが、その分使用者の負担が尋常ではないようだ。

 

 私が主に魔力を送っていなければ、今頃主は魔力が枯渇して死んでいたかもしれない。いや、間違いなく死んでいただろうな。

 そして未だに主から従魔たちに魔力が送られ続けている。その魔力の中には私の魔力も含まれているが、問題はないだろう。

 

 アスラのほうは、いつの間にか手にしていた薙刀で憑き物地竜を吹き飛ばし、トドメに口から発した光線で、一瞬で二体の憑き物地竜を薙ぎ払った。

 

 あれは……あのときよりも威力が桁違いに見える。私でも受けきれるか分からんな。味方になってくれてよかったと思う。

 そして経験値が主を除く全員に流れていく。いつの間にかに、全員の攻撃が全ての憑き物地竜に入っていたようだな。これは進化に期待が持てるかもしれない。


「ふぅ、あっけないものよな。主様と私の力を合わせれば当然の結果じゃが、物足りないな」

 アスラはそう言ってアトラ殿とベヒーモス、アルとエリザベスのほうを見た。


 戦況は……アルとエリザベスは見事なコンビネーションで憑き物地竜を翻弄し、攻撃を与えて弱らせている。この調子なら問題なく倒せるだろう。


 だが……ベヒーモスとアトラ殿は苦戦している様子だな。それも仕方ない、アトラ殿たちの憑き物地竜だけ、他と比べて一際大きい個体なのだ。

 その分パワーも強く、その癖に動きも早い。


 アトラ殿の網を巨体に似合わぬ動きで避け、炎のブレスで反撃している。

 アトラ殿にとって火は弱点だ。なんとかベヒーモスが盾になってカバーしているが、このままだとマズイかもしれん。


「助太刀するべきかの」


「……いや、もう少し様子を見てみよう」

 ドシンと大きな音がしたと思いきや、アルとエリザベスコンビが憑き物地竜を倒したようだ。

 あの素早い動きを捉えるのは、憑き物地竜では無理だったようだな。


 三度、経験値が主を除く全員に流れ込み――


「へぇ……」


「ほう……」


 そしてアトラ殿の体が進化の光を放った。

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