第39話 揺るがぬ決意
ダークエルフの村から拠点に戻ると、大量の魔物の死体が山積みにされているんだが?
そう思っている間にも、アルが獲物を掴んで飛んできて、山の上に落としていったな……。
俺が戻ったことで、アトラたちが集まってきた。昔実家でペットを飼っていたとき、家に入ると駆け寄ってきたペットたちを思い出して和むな。目の前の死体の山を除けばだが。
「これは大量だな。お前たち、よくやったぞ」
霞がアルとエリザベスを褒めている。俺もアトラを褒めるべきか? 褒めるべきだろうな……。
「……」
アトラがじっとこっちを見ている……作業員も全員無事みたいだし、褒めるか。
「アトラもよくここを守ってくれたな。ありがとう」
「キ!」
しゃがんでアトラの頭部分を撫でてやる。良い手触りだ。
まだ外は明るいが、建築作業はだいぶ進んでいるようだな。
もう外壁と屋根が張り付けられているし、あとは内装だけか?
気になるが作業の邪魔をしてはなんだ。黙って作業が終わるのを待っていよう。
待ってる間、肉をテイムミートにして、残りはバルトンたちに持って帰ってもらうか。
▽ ▽ ▽
「……こんなもんか」
アトラによって次々に解体された生肉をテイムミートに加工して、アトラたちに食わせていった。
もう日も暮れてきているな。かなりの量を加工して、魔力も消費してるし、俺も疲れた。
食料問題は完全に解決したと言ってもいいだろうが、魔物が絶滅したりしないか不安な面もある。
いくら危険な魔物だろうと、絶滅してしまっては問題だろう。
畜産という概念があれば問題ないかもしれないが、冒険者稼業などの職業に大きく影響を及ぼすかもしれない。生態系の問題もだ。
まぁたかだか俺たちが多少狩ったところで、この森の魔物が全滅するとは思えないが、気をつけるに越したことはないな。
そもそも人類のことを考えれば、この森の魔物は全滅させたほうがいいのか……?
「終わったようだな。こっちも作業が終わったぞ」
「ああ、お疲れ様だ」
俺の作業が終わるのを待っていてくれたのか、バルトンが丁度良いタイミングでやってきた。
「頼まれてた物は完璧に仕上げた。また何かあれば言ってくれ」
「そうだな、何かあれば遠慮なく頼むとしよう。今回の報酬ってわけじゃないが、あそこにある余った魔物の肉を持って帰ってくれ」
「……かなり量があるようだが?」
「資材を運んできた荷車に詰め込めば運べるだろ?」
「流石ジェニスの婿殿だな。ありがたく貰っていくとしよう」
「婿になった覚えはない」
「孫の顔を期待しているぞ」
「お、おい!」
参ったな。バルトンの奴、あれだけ言ったのに完全に俺をロックオンしてやがる。
そして更に困ったことに、今の話をジェニスが聞いていたということだ。
「た、大将……」
顔真っ赤じゃねーか。可哀想と言うか、もはや同情すらするぞ。
「今の話は気にするな。俺はいつか元の世界に帰る。だから誰かと結婚するつもりも、子供を作るつもりもない」
自意識過剰かもしれないが、勘違いでなければ、ジェニスが俺に対して好意を抱いているというのは薄々感じている。
だから少し酷かもしれないが、ここでハッキリと言ってやるのがいいはずだ。
「わ、わかってる! そ、それよりも飯が出来てるぜ! 冷めないうちに食べてくれよな!」
それだけ言ってジェニスは家に戻っていったが、これでいい。
「本当にあれでよかったのか?」
霞が意地悪そうな笑みを浮かべて絡んできた。鬱陶しいやつめ。
「俺はいつか元の世界に戻る。そうなればジェニスの子供は父親を失うことになる。子供をそんな状態で放置なんてできる訳ないだろ」
「じゃあ帰らなければいいであろう」
「バカヤロウ、俺は何としてでも帰るんだよ」
「……主の元の世界には、そうまでして帰る価値があるのか?」
「…………ある」
十億円という大金、文明の発達した便利な世界、命の危険が限りなく少ない世界、色々あるが――
それより何よりも、俺はこの世界にとっての異物だ。
ただでさえバランスブレイカーなスキルを持たされている状態なんだ。この世界に長居して世界のバランスを壊すつもりはない。
俺の心情的にも、心のどこかで俺の居場所はここじゃないという、疎外感のようなものを感じている。居心地が良いか悪いかでいえば、悪いんだよ。
だから俺は元の世界に帰るんだ。
だが……もしアトラたちが人型に進化したら、子孫を残させる責任が俺にはある……あるのか?
あるかもしれない。そういう風に進化させてしまったなら。
そうなると番を用意して、従魔たちが安心して暮らせる居場所を作らないといけない、か……。
霞に縄張りを持ってもらい、そこで保護してもらえば、安心して暮らせる……か?
最悪の状況は回避できるだろうが、問題は山積みだな。吐きそうだ。
あれもこれも、俺をこの世界に召喚した国のせいだ。やはり許せそうにないな。
ほぼ八つ当たりだが、どうやらキッチリ報いを受けさせてやらないと俺の気が済まないようだ。
憎きあの国、どうしてくれようか……。
「主よ、悪人のような顔をしているぞ……」
おっと、感情のあまり良くないことを考え過ぎたな。
あまり調子に乗ったことを考えるのも面白くない。だが何かしらの報復は考えておかないとな。俺の心の安寧のためにも。
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