第21話 白い大蛇とのエンカウント




「よし、ここで昼飯にするぞ」


 あれから途中途中で休憩を挟み、日も天に上りつつある。

 まだ昼時には早いが、早めに食べさせておこう。


「やっと昼食だ……」


「朝食が早かったからもうお腹ぺこぺこよ」

 倒れ込んだジェニスに、ベルカがぼやくように話しかけていた。

 途中で軽食休憩を挟んでも良かったかもしれないな。小休憩は挟んでいたが、無理をさせてしまったか。

 バスと言わないまでも、大人数が乗れる馬車があれば、移動も少しは楽になりそうだが、無い物は仕方ない。


「キ?」


「あぁ、いや、大丈夫だ」

 人が増えると問題も増える。上手くやっていきたいものだ――


「「「「「キャーーーーー!!!!」」」」」

 叫び声に振り返ろうとしたら、真横に、白い化け物がいる――


「なっ、いつの間に!? うわっ!!」


「キ!」

 そのまま食われそうだったが、間一髪のところでアトラが糸で引っ張って助けてくれた!


「主!」


「クエッ!!」

 危なかったな……アトラがいなかったら白い大蛇に食われていたところだった。

 

 しかしなんだコイツ、ドラゴンのような顔をしてると思ったら、体は手も足も翼もない……蛇だな。しかも白い。白蛇ってことは、神聖な生き物だったりしないか?


「霞、こいつは!?」


「ヴリトラだ! 私が相手をする! 主は女たちを守れ!」


「――わかった! アトラ、ベヒーモス、エリザベス、アル! 俺たちは女たちを守るぞ!!」


「キ!」


「ブモォォォォ!!」


「クエーーッ!!」


 霞が相手をするというほどの相手なら、俺たちがいるのは邪魔になるだろうな。

 ここは大人しく霞の言う通りに動いておくべきだ。ここで間違って俺も戦うなんて言い出せば、霞の足を引っ張りかねない。それ程までに霞の雰囲気は切羽詰まっているように見えた。


「大将……どうすんだ?」

 ジェニスが不安そうな顔をしている……どうすんのか俺が知りたいくらいだ。

 そんなことを聞き返したら恰好悪すぎるよな。だからどうするか考えろ。


 どうする? このまま霞に任せたままで大丈夫か?


 霞とヴリトラと呼ばれた蛇は睨み合ってる状態だ。迂闊に動いて余計なことはしたくない。

 ……仮にも霞の主である俺が何もできず、従魔の指示を待つなんて情けなさ過ぎるだろ。

 クソッ、俺にもっと力があれば……なんて考えも虚しいだけだな。

 俺はまだ未熟な新米テイマーだし、こっちにきたばかりの状態では仕方のないことだと割り切る。


 何もできなくても、やれなくても、現状の最良を考えろ。


「……霞がなんとかしてくれるはずだ。お前たちは俺の後ろに下がって、他の魔物の警戒を頼むぞ」

 とりあえず現状で怖いのは、他の魔物の横やりや不意打ちだ。ジェニスたちにはそれに備えてもらう。


「あ、ああ、わかった……」


 白き大蛇ヴリトラの大きさは、人一人簡単に飲み込めるほどに大きい。馬車ですら一飲みできるんじゃないか?

 そんな存在が俺たちに気づかれず、あんな接近していたなんてな……。

 もし霞が負けたら、間違いなく全滅するだろう。

 

 だがなんだ……? かなり傷ついているようだが、何かと戦って逃げてきたのか?


「まさかこんなところで話しに聞いていたヴリトラと出逢うとは、なっ!!」

 霞が最初に動いて飛び出した。


 あんな巨体相手にも接近戦を挑むのか……いや、巨体だからこそ、飲み込まれないように懐に入って叩くのか?

 

 霞が地面を蹴って左右にフェイントを入れながら接近して――


「ふっ!」

 横っ腹に右フックを入れた。

 

 ――いやいや、どんだけ威力があるんだよ……ヴリトラの浮いて体がズレたぞ。流石に俺もドン引きだぞ。


「!?」

 凄い威力だとドン引きしていたら、ヴリトラの体がしなって――弾かれた。


「ぐっ……!!」


「霞!!」

 凄い勢いでスウィングされたヴリトラの体に衝突して、霞がふっ飛ばされた!


 ヴリトラの体は木々をものともせず巻き込んでいたし、吹き飛ばされた霞も木々を薙ぎ倒しながら飛んでいったぞ……!

 

 あんなものがこっちにきたらシャレにならない。霞ならそうならないように上手く立ち回れるだろうが、俺たちも気をつける必要があるか……。

 

 と、ヴリトラがこっちを睨んでるな……。


 ヤバイ、蛇に睨まれたカエルってこんな気持ちだったのか?


「お前の相手は私ッ、だッッ!!」

 復帰した霞の右ストレートがヴリトラの顔面にヒットした!

 

 だがヴリトラも鞭のように体をしならせ反撃してくる……!

 霞は上手く避けて戦えているが、ヴリトラの一撃が重すぎるだろ……。


「霞! 何か手伝えることはないか!?」


「主たちはッ! そのまま待機していてッ……くれッ!!」

 霞が返事をしながら連打を決めていっている……やはり今の俺たちにやれることは何もない、か……。


 いや――


「引き続きアルは空から他の魔物がこないか索敵を頼む。エリザベスは周辺の警戒を任せる。ベヒーモスは女たちの壁になって、飛んでくる障害物から守ってくれ!」


「クエッ」

「ブモ」

 だが何もできない訳じゃない。


「アトラ! 飛んできた木や岩を網で防げ!」


「キ!!」

 俺たちは俺たちにできることをやればいい。

 

 だから絶対に勝ってくれよ、霞……!

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