§ 1―6 蠢く陰謀



 かの国議会の1年半前。前王アルバニアの長男カラレスは、妻と息子を連れ、王位継承に先駆けて各領に挨拶参りに出ていた。カラレス皇太子一家を乗せた車は、2台6人の護衛を付けて、セラティス領、マルクス領。レリア領、ヘイゼル領とそれぞれの領主を伺い、各領地の主要な施設を回り、各地の風土を体験しながら進んでいた。これが、王位を継ぐ際の慣習になっており、マルクス領では、最近オープンしたテーマパークを息子のカイトと楽しみ、ヘイゼル領では、妻ミーナと乗馬をたしなんだ。


 王とは、9つの領の長である。レムリア王国は210年前に9つの国が統合された。統合される前は、それぞれの国が奪い奪われの戦争を繰り広げ、凄惨せいさんな行為もあった。そこに、アラド国の国王は、領地で見つかった古文書にある『死の戦争』を引用し、このまま戦争を続けていれば、このレムリア大陸も人が住めない土地になってしまうと主張した。この訴えに賛同したアラド国の周辺国は連合を組み、最後まで戦をやめなかったキャラバ国・レリア国の連合を制圧したことで、戦は終わり、連合国としてレムリア王国が建国されることになった。


 キャラバ領は砂漠が多く、鉱産資源・エネルギー資源が豊富に採れる領である。これにより、財政は常にうるおっている。


 カラレス様が5つ目の挨拶参りにキャラバ領を進んでいるときに事故が起きた。カラレス達一行は巨大竜巻に巻き込まれ、車ごと100m以上舞い上がり、そのまま叩きつけられたのだ。領主ツヅガナから中央宮殿に緊急の通信があり、アルバニア王が知るところになる。すぐに警備局と技術開発局で事故調査が行われ、竜巻が原因の偶発ぐうはつ的な事故と結論づけられた。その後、アルバニア王は、急遽きゅうきょ、王位をカラレスの弟ゼニスに王位を継承させることを発表し、その2週間後には、第8代王位継承者ゼニス王が生まれたのである。


 このとき、アニスはセラティス領に妻エリサの墓参りに出掛けており、事故調査に参加してはいない。もし、アニスが事故調査に参加していたら、調査結果は違うものになっていただろう。


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