慕情6

 首筋を真っ赤にしながら、ロボットのようにガチガチに固まるその姿を横目で捉えて力なく謝る。彼女に恥をかかせてしまったことが心の底からただただ情けなく、申し訳なかった。


「い、いや、大丈夫。うん、だってここは桜ちゃんのお家だし仕方ないよ……」

「…………………………」 

 自分に言い聞かすようにコクコク頷きながら、無理に口角を上げて笑みを作る彼女。

「はぁー……、馬鹿ばっかでまじでごめんね……」


 言いながら、たまらず両手で頭を抱える。馬鹿ばっかに含まれる二名に悪気がないのにまた腹が立つ。誰も悪く無いと分かっているからこそ気持ちのやり場に困るのだ。


「ううん本当に大丈夫だから。楽しいお母さんでいいじゃない」


 私の肩に手をポンっと置いて、気丈にも優しい言葉をかけてくれるその気遣いが素直に染みた。


「楽しいっていうか、愉快っていうか、むしろ不愉快っていうか、もはや宇宙人っていうか……」ただの敵っていうか。

 人をおもちゃのような目で見るマッマの憎たらしい顔が浮かび、様々な悪口雑語がとめどなく溢れる。


「まあまあ、ほらせっかく晩御飯だって呼んでくれたんだし、ていうか私までご馳走になっていいの?」

「あー、気を使わないでいいって言ったんだけど、なんか余計変に気合い入っちゃたみたいで……。もし良かったら食べてあげて」

「わーい、お腹空いてたから嬉しい!」


 あんなことがあったのに、小さく腕をあげて喜ぶ彼女の優しさに胸の奥が締まる。思えば、彼女のそういう前向きな思いやりに私は何度も救われていた。


「はーあ、確かに、怒鳴ったせいか私もお腹空いたなあ」

 愚痴っぽくも、空元気を絞って明るい声色で同調する。せっかく彼女が空気を和ませようとしてくれているのに、いつまでもいじけているのも大人気ない。


「ふふっ、じゃあそろそろ下に降りようか?」

 そう提案する彼女の言葉に少しだけ頭を働かせる。

「んー……、でももし気まずかったら、下からご飯持ってくるから二人で食べる?」


 ママンは良いにしても、妹にはバッチリ見られてるし、多分もう色々バレていると彼女自身察しているはずなので、顔を合わせて食事なんて喉が詰まってしまうかもしれない。そう思って聞いてみたのだが、


「……んーん、大丈夫。せっかくだから皆で食べよう?」

 笑顔で手を横に振る彼女。

「……本当に?」

 彼女の瞳の色合いが一瞬影ったように見え、思い違いかもと分かっていても聞き返す。しかし、「もー、大丈夫だって。桜ちゃんってばしんぱいしょー」と笑われてしまった。

「……ならいいんだけど」これ以上しつこくしてもさらにからかわれそうなので、大人しく食い下がる。


 私が彼女だったら、絶対に同じ状況で相手方の家族と食事など喉を通らない。その社交性は素直にすごいなと感心。


「それにさ、……夜はこれから、だよ?桜ちゃん」


「……え?あぁ、まぁ確かに、やっと外が真っ暗になったから夜間時間は今から明け方にかけてだけど、それがどうかした?」

「…………いや、なんでもないの。なんでも」

「そう?」


 なぜか窓の外、遠くの電柱を見つめて頓挫したようにポツリポツリと話す彼女。小さくまじかーこの子……と聞こえたのは気のせいだろうか。


「うん、まぁいいや!食べに行こっ桜ちゃん!」

「わわっ、はいはい」


 勢いをつけて両足で立ち上がった彼女が、私の腕を引っ張って部屋から出る。

 腕を引かれるがまま一階に降りて、居間に入る前にささっとすり足で前に出て、逆に私が彼女の腕を取るように歩き出す。



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