わらしべ超ジャワカレー

「たどり着いたのはおふくろの味だった、てことですね」


 そう語るのは、都内の食品加工会社「藁谷食品」の社長藁谷良明氏(48)。

 藁谷氏は弱冠20歳で起業し、レトルトカレーを主力とする食品加工会社を立ち上げた。

 藁谷食品は創業から急速な成長を遂げ、10年で東証一部上場を果たした。

 今やレトルト食品業界を席巻する有力企業となった藁谷食品。今回は社長である藁谷氏に成功の秘訣やレトルトカレーへのこだわりをインタビューした。


──休みの日はなにをされているんですか。

藁谷:そうですねー。ゴルフに行くか、自宅で映画を見ることが多いですね。あとたまにカレーを作ります。


──お休みの日もカレーについて研究しているんですね。

藁谷:いやいや、ほんとにたまにですよ(笑)


──藁谷さんのことをネット上ではカレーの神という人も多いとか。

藁谷:神だなんて(笑)ちょっとカレー好きなおっさんですよ(笑)


──カレーはやっぱり好きなんですね。

藁谷:ええ、カレーは毎朝食べてますよ。メジャーリーガーのルーティンワークみたいでしょ(笑)


(一同爆笑)


──カレー好きだからこそ、素晴らしいレトルトカレーを作れるんですね。

藁谷:いや、それはどうなのかな。


──というと?

藁谷:組織ですからね。僕個人がどうこうじゃない。会社として作るなら、極端な話、僕がカレーを嫌いでもいいんですよ。


──なるほど。しかし現在の人気商品には藁谷さんの意見がかなり反映されていると聞きました。

藁谷:お、ついに本題ですね。


──(笑)

藁谷:休みの日はどうとか聞き出すから、この人はなんの話をしに来たんだろうって(笑)


──すみません(笑)それでは藁谷食品のレトルトカレー誕生秘話を聞かせてください。

藁谷:秘話ってほどじゃないんですけどね。まあ、簡単に言うと、出会い、ですよね。


──出会い?

藁谷:はい、出会い。 


(ここで藁谷氏はアルバムを見せてくれた)


──この写真は?

藁谷:我が社のレトルトカレーを開発するまでに僕が出会ったカレー屋さんたちです。


──レトルトカレーを作るために協力してくれるカレー屋さんを探していた、ということですか?

藁谷:そういうわけじゃないんですよ。ただ僕はおいしいカレー屋さんを探してたんです。


──個人的に?

藁谷:そう、個人的に。起業する1年前くらいからかな、日本一のカレーを食べてみたかったんですよ。当時はネットもないですからね。自分の足で探すしかなかった。


──それでいろんなカレー屋さんを周った。

藁谷:そう。それで最初はがむしゃらにカレー屋を周ってたんですけどね、途中であることに気づいたんですよ。


──あることとは?

藁谷:効率よくうまいカレー屋を探す方法。つまり店長と仲良くなって、自分よりおいしいカレーを作る人を教えて下さいって聞くんですよ。


──それはなかなか大胆ですね

藁谷:そうでしょ?商売敵を教えろって言うようなもんですからね(笑)今思えば頭のおかしい若者ですよ(笑)


──しかしその大胆な行動で日本一のカレー屋を見つけることができた?

藁谷:いや、それがうまく行かなかった。皆さんやっぱりプライドがあるから、自分と同レベルか少し下のレベルの人しか教えてくれないんです。だからだんだん店のレベルが下がっていった。まあ、合コンに友達を連れ行くなら自分より格好良かったり可愛かったりする子を連れて行かないですよね。それと一緒です(笑)


(一同苦笑)


──最終的にはどこに行き着いたんですか。

藁谷:最後はね。隣の家のお母さん。


──お母さん?

藁谷:そう、お母さん。実は隣の家は蕎麦屋だったんだけど、カレーを出してたんだよね。その一つ前の店で蕎麦屋を教えられたとき、ついにカレー屋じゃなくなったか、と思った。でも蕎麦屋のカレーって意外とおいしいことが多いって知ってたから、そういう隠れた名店なのかなって。しかも実際に教えられた場所が自宅の隣だったから驚いた。


──それで入ってみたらカレーが美味しかった?

藁谷:いや、無茶苦茶まずかった(笑)


──(笑)

藁谷:なんか粉っぽいし、味はしないし、色は変だしで最悪だった。


──なぜそんなカレーを出してたんでしょう。

藁谷:大将の趣味らしい。大将は大のカレー好きだったんだよね。カレーが好きだからといって、うまいカレーが作れるわけではないんだね。


──例の質問はしたんですか。

藁谷:した。一応ね。そうしたら大概の店はうちよりうまいカレーを出すって言われたよ(笑)


──まずい自覚はあるんですね(笑)

藁谷:そうなんだよね。でもカレー屋じゃなくて良ければ一人紹介できるって言われた。


──というと?

藁谷:それが大将のお母さんだった。大将のお母さんが作るカレーは相当うまいってね。それで大将に頼んで夕飯がカレーの日に呼んでもらった。


──突撃したんですね(笑)

藁谷:そうそう(笑)で、実際に食べさせてもらったら、これがとんでもなく美味しかった。何が美味しいって具体的に説明できないんだけど、なんというか優しい味だった。おふくろの味ってやつだね。僕は物心つく前に母を亡くしていたから、おふくろの味というのを知らなかった。


──初めて食べたおふくろの味に感動されたんですね。

藁谷:感動した。それで店でもお母さんにカレー作ってもらって出せばいいじゃないかって聞いたんだよ。そうしたらそれは無理だって言われた。


──なぜですか。

藁谷:だって市販のカレールウで作ったカレーだからって、笑われたよ(笑)


──それは売ったらまずいですね(笑)

藁谷:いろいろね(笑)でも僕はすごくもったいないと思った。おふくろの味って案外そういうものなんだよね。


──そういうものとは?

藁谷:例えば市販のルウとか誰が使っても同じはずなんだけど何故か家庭ごとの特徴がでる。そういうのがおふくろの味なのかなって。


──なるほど。

藁谷:それをなんとか再現できないか、僕のようにおふくろの味を知らない人におふくろの味を体験してもらうことはできないか。そういうことを考えてレトルト食品の会社を立ち上げました。


──そういう野望があったんですね。

藁谷:野望、そう野望ですね。僕はおふくろの味を再現するために色々な研究をしたよ。


──例えば?

藁谷:夕方の住宅街を歩いてカレーのニオイがしたらチャイムを押すとか(笑)


(一同爆笑)


──カレー屋巡りからおふくろ巡りに変わった(笑)

藁谷:そういうこと(笑)そんな感じで色んな人に迷惑をかけてたどり着いたのがうちのレトルトカレー。


──具体的にはどうやっておふくろの味を再現したんですか。

藁谷:まあ企業秘密だから詳しくは言えないんだけど、パックするカレーを作るときにランダムに投入する添加物や水分の量を変えてあえて味が安定しないようにしている。そうすることで同じ商品でも食べる度に味が微妙に変わるようにしてるんだよね。


──なるほど。

藁谷:おふくろの味っていつも味が違うよね。機械が作るような特定の味じゃない。


──機械が作っているのに、安定していない。それが藁谷食品のレトルトカレーが人気の秘密だったんですね。

藁谷:そう。だがらここだけの話、たまに大ハズレのやつがあってクレームが来ます(笑)


(一同爆笑)


──長い時間ありがとうございました。最後に藁谷さんにとってカレーとは何か教えて下さい。

藁谷:そうですね。カレーは飲み物です。

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