第32話 Tous les visages de l'amour
ーーー忘我。
自分でも何が起きたのか分からなかった。
振り下ろした
マリア「……あ…」
「リリ……なん…で…」
王家の花園。その中でも最も美しいとされる『烏瓜の君』
その面影は最早存在しない。
世界樹との目合ひの果て、境目を飛び越えたその姿は、苔生した
リリー「姫様…」
「いえ、マリア」
「貴方との美しい日々は忘れません」
「ですが私は王国の盾であり剣」
「双月の旅路の果て、お供出来なくて残念です」
どこまで聞こえただろうか。
物言わぬ百日紅と化した姫君は静かに従兄弟の後を追いかけた。
クレメンス「……何が…起きたんや…」
??「にーに!聞こえる?」
「アタシから説明するね!」
クレメンス「その声は……」
「パルヴス…?」
パルヴス「そうだよにぃに!」
「久しぶりだね!」
クレメンス「お前さん…」
「薪になったんちゃうんか?」
「ホンマに…パルヴスなんか」
パルヴス「にぃに、しつこいよ!」
「あんまり時間ないんだかんね!」
ーーー『小さきパルヴス』
王国の建国時、教会より贈られた世界樹から生まれた『守人』である。
齢で言えば数百年。
それでも各国の世界樹の中では一番小さな末娘であるーーー
パルヴス「あの時ね」
「このお姉ちゃんが助けてくれたの!」
「何とか精神だけお姉ちゃんの体の中に移してチャンスを待ってたんだ!」
「えへへ~褒めてくれてもいいんだよ?」
クレメンス「…ほーか」
「……ほーか」
ヘルマン「こんの馬鹿娘!!」
パルヴス「ヒェッ!」
「お姉ちゃんバトンタッチ!」
リリー「あら、お父様」
ヘルマン「お父様じゃとぉ!!」
「どの面下げて…」
「儂が……どれだけ……」
リリー「泣かないでお父様」
「それにロベルト!」
「いつまでそうしてらっしゃるおつもり?」
ロベルト「…」
リリー「あら、固まってらっしゃるわね」
「……150万と2000日ぶりね」
「ただいま、ロベルト」
ロベルト「…お、おかえりなさい」
ーーー襲撃の日。
指揮系統が総崩れにあった近衛騎士団。文字通り決死の奮戦虚しく、内外から上がる火の手と都度蘇る不死人に追い立てられるように、公爵令嬢は世界樹に身を寄せていた。
未だ巡礼に出れない幼き『守人』は、縁を頼り集う人々を守らんと必死であった。
パルヴス「どうしよう…」
リリー「守人様!ここは私と近衛兵が食い止めます!」
「貴方様は残りの人々をお守りください!」
パルヴス「そんな事言われてもアタシ…何も出来ないよぉ」
「何か……何か出来る事は…」
「……」
「…お姉ちゃん」
「王国全部は無理だけど…」
「ここにいる人達だけなら…」
「その為には…」
リリー「……」
「…もとより我が身は王国の盾」
「…この身をお使いください守人様」
「クソ!世界樹め!」
「どうした?」
「フランツ様!世界樹め自身を盾に山全体に結界を張りました!」
「中には王の末子もおります」
「捨て置け」
「しかし…」
「良い。どうせこの国は終わりだ」
「『花』が咲くまで保つまい」
「万が一、生き延びたとて『花』さえ咲けば結界も壊れる」
「ははっ!」
「おや、馬酔木の君」
「一人で外から扉を閉めたのかい?」
「気に入ったよ。僕等の仲間入りさせてあげよう」
パルヴス「ハァ…ハァ…」
「うまくいったみたい」
「お姉ちゃん聞こえる?」
「不死人の術にも耐えられるようにお姉ちゃんにも結界を張ったからね!」
リリー「聞こえますよ守人様」
「今はこのまま好機を待ちましょう」
「必ずあの人が来てくれます…」
ーーー
パルヴス「と、まぁそんな感じ?」
「えへへ~パルヴス頑張ったよぉ~」
「にぃにポンポンはよ~」
クレメンス「凄いやんけ!流石ワイの妹やで!」
「なんぼでもポンポンしたるで!」
「…せやから……」
「…行かんでくれ」
パルヴス「あにゃ~」
「にぃにのポンポンは世界樹一だねぇ~」
「でもごめんね~」
「もう時間みたい」
「お姉ちゃん、どうもお邪魔しました!」
「初めましてのにぃにのお友達の皆さん」
「不束な兄ですがどうか宜しくお願いします!」
「にぃに!」
「サヤマー茶飲み過ぎ禁止だからね!」
「あとローブは自分で洗濯すること!」
「あとあと!」
クレメンス「…うん」
「…うん」
パルヴス「もうにぃに!樹液漏れてるよ!」
「にぃに、ありがと」
「またいつか一緒に日向ぼっこしようね」
「ばいばい、にぃに」
クレメンス「……」
ヘルマン「守人様……」
クレメンス「…ったく」
「力も禄に無いクセに…」
「お節介ばっかり焼きおんねん」
「……サンガツやでパルヴス」
ランマル「…終わったでゴザルか」
エイダ「……アタイもう動けねぇ」
ジジ「私はヒゲすら動かせません…」
アプール「…ップ」
リリー「それにしてもお父様」
「よくお気付きになりましたね」
ヘルマン「馬鹿娘とは言え年を取ったかどうかくらい分かるわい!」
「それに儂がぶん投げた斧にメッセージ残したじゃろ?」
エイダ「あ、それアタイが言ったヤツだ」
ヘルマン「年も取らず血も流れぬはずの不死人が斧の信条の所に血を付ける」
「何かあると思うての!防戦に徹しておったんじゃ!!」
「開祖が救国の軍師だけあって我が家系は儂を筆頭に切れ者揃いじゃて!ぬっはっはっは!!」
ジジ「とんだ狸親父ですね」
ロベルト「……」
リリー「ロベルト?」
「こんな時は貴方が何か仰るのではなくて?」
「貴方、暫く見ない内にずいぶん無口になったみたいね」
ロベルト「…まだ全部片付いた訳じゃないが」
ロベルト「一先ず勝ち鬨だ!!」
一同「おおおおおおお!!!!」
次回 『歩いて帰ろう』
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