第7話 大学生時代の朝(母)


 「れい、ティー紅茶のむかね?」




 「お母さんさ、粉の紅茶のことを言っているのかね?」




 「ティー紅茶でしょう。」




 「うむう。ティー紅茶は、意味がティーティーだからね。2回言ってどんすんのよ。」




 「そうかね。お母さん英語知らんわ。」




 「ティーは英語には入らんよ。全く。」


 我が家はど田舎ながら、何故か、朝は昔からトーストとミルクティーというような朝食で当時の田舎的にはハイカラであった。僕は夏休みの後半を自動車学校に通うのである。




 「お父さんはどこいった?」




 「ランランの散歩じゃないかね。」 


 中型犬である、シェパードと柴犬の混血で、祖母が思いつきで近所から譲りうけてきたのだ。しかし祖母は市内の別の場所に一人暮らししていて、自分は面倒見ないで人に世話をさせるという実に気分屋かつ、無責任なおばあちゃんだった。


 


 「あんた東京のサホはどうしてるん?」




 「あ?あいつは毎日飲んだくれてさ、夏目漱石だ、三島由紀夫だとか、近代文学なんちゃら部長とかいって偉そうにしてるよ。能とか怪しい踊りを家でやるから、うるさくてたまらん。」




 「サホは日本舞踊の名取だからねえ。おばあちゃんは、まあサホにどれだけお金使ったがわからんわよ。あの子は贅沢。」




 「自分で好きなことを勝手に自己完結して、やってりゃあいいのに、あいつは人にいちいち指図するからいけすかないんだよ。」




 「そうなんかね。わたしゃ難しい話はわからん。」




 「あのさ、お母さんも昔、先生もやったんだろ。しっかりしてくれよ。」




 「私はね代用教員だわね。」




 「ん?ところでお母さんは何、国語かね?」




 「いや、理科かな。」




 「理科?理科なんかわかるん?」




 「お母さんはね、星を見てれば楽しいの。れいは、夜になったら、空を見てみなさい。まあ綺麗な空だわね。お母さん空見てたら、幸せよ。」




 「ん?理科の時間に空は見れないでしょ?」




 「お母さん星の話ばっかりしとったわ。」




 「は?理科に星なんて科目あったかな?だいたい気圧配置とか電流とかお母さんわかるんかね?」




 「頭のいい子がいるからね。前に出て、みんなに教えてもらったわね。」




 「それは・・・反則だなあ。平和か。」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る