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  「ぐぁ!」「がっ!」


  「!?」


  命じたはずの矢は放たれず、異様な声を出してドサリドサリと地に伏せる。異変に振り返ったクラウンは、灰色の祭司が次々と倒れた事に、その場から一歩下がった。


  「なんだ、これは」


  倒れた者達の首や急所に、弓矢が突き刺さっている。祭司達は慌てて瓦礫に身を隠すと、周囲の森を警戒に見回した。


  「クラウン、私が、何の手もなくこの場に来たと思ったのか?」


  グランディアの部下、密偵として暗躍する者は先行して既にこの場に潜んでいる。


  間に合わず、リリーへ放たれた矢の一部が衣服を掠めた失態を見て、グランディアは苛立ちを隠さなかった。


  「くそ!」


  だが狙う的は三つ。まだ武器を手にする祭司は残っている。クラウンは、「急げ、早く、殺れ!!」と大声で叫んだ。


  発射するが、横合いからそれを別の弓矢が弾き飛ばす。その間に、物陰の無い泉から離れようと三人は森へ向かって動き出した。


  ボーガンでは当たらないと思った祭司の数人は、腰の剣を抜き身に石像の影に隠れ、次に泉周辺の茂みに移り忍び寄る。


  「こうなったら、絶対に、グランディアと、令嬢だけは、確実に仕留めろ!」


  クラウンに言われて、捨て身に走り出した灰色の外套祭司たち。木陰から援護していた女兵士も気付いて走り向かうが、それを別の者に阻まれる。

 

  六人の祭司が一斉に剣を振り上げ襲いかかり、グランディアがそれに応戦するが手が足りず、一人は足を引きずるエンヴィーと、それを押すリリーの背後に追い付いた。


  「アイの不幸を!」


  「!!」


  頭上に振り上げられた長い刃を、振り向き見上げたリリーは咄嗟に、護るようにエンヴィーに抱き付き押し倒した。


  ーーカァン!!


  軽い音に弾かれ舞い上がった剣と共に、倒れた灰色の祭司の背後にはエレクトが立っている。そしてグサリと剣が地に突き刺さると、リリーの真上から女騎士の声がした。


  「遅くなり、申し訳ありません」


  「ナーラ様! エレクトくん!」


  現れた護衛騎士たちに安堵し全身の力が抜ける。地面に強かに身体を打ち付け、痛みに顔を歪めて半身を起こしたエンヴィーは、自分に覆い被さる温かい体温が、ナーラによって剥がされたのを見た。


  「ご無事で」


  「ナーラ様、エレクトくんも、良かった…」


  グランディアの援護に回ったエレクトと、再びナーラを見つめたリリーは、しっかりと立っている二人に涙ぐむ。その背に、エンヴィーが問いかけた。


  「なぜ庇った」

 

  振り返ると、出血に真白い顔が蒼白となったエンヴィーがゆっくりと立ち上がる。言われたリリーは小首を傾げたがほどなく軽く頷いた。


  「そこに貴方が居たからよ」


  「私は境会アンセーマの祭司だ」


  何の事かと黒の瞳を見つめた蒼の瞳。それは数回瞬くと、結ばれていた唇が開かれた。


  「境会それ怪我これは別なのよ」

 

  言われたエンヴィーは意味が分からずその場に立ち竦む。少し離れた泉の岸辺では、グランディアとエレクトが灰色の祭司と切り結び、教会跡地の瓦礫の中ではクラウンが短外套の少年に「主祭司様に連絡を!」と叫んでいた。


  「……」


  エンヴィーを置き去りナーラの元へ歩き出したリリーの背に、すがるような声がかけられた。


  「思い当たる節がある、貴女はそう言った」


  「?」


  振り返った蒼の瞳は少し何かを考えた後、思い出したと頷いた。リリーは、エンヴィーに自分の謎を与えたままだった。


  「そうね、まだ答えを言っていなかった」


  背後でナーラが眉をひそめるが、リリーはエンヴィーに向き合うと、何故か両手を腰に胸を張る。


  「貴方と私の共通点、それはね、悪役だからなのよ」


  「??」


  「間抜けにやられる事が仕事なの。だからそんなに怪我をした」


  「???」


  リリーの答えに間の抜けた表情をしたエンヴィーの、心中を理解できたのはナーラだけ。言った本人は満足ににっこり笑ったが、それをエンヴィーは不満に呟いた。


  「私の考えとは違う」


  握ったままの胸元から、握りしめた手の平を前に出した。それにナーラは身を固めたが、リリーは疑問に首を傾げる。


  「どうぞ、これが私の答えです」

 

  「?」


  「姫様!」


  嫌な予感にナーラは叫んだが、「どうぞ」と言われたリリーは素直に手の平を差し出した。


  真白い手が重ねられ、エンヴィーが手を引くと緑の石が残された。リリーの手の平の半分ほどの大きさ。何処かで見たことのある美しい緑色は、破片の縁に光を宿し、見つめていると、光は石の中央に急速に集積された。


  「?」


  ーーカッ!!!


  「キャア!!」


  真白い光が辺りを包み込み、石から光が迸る。叫んだが、手から石は離れない。リリーの持つ石の光は二ヵ所に分かれると、教会跡地の瓦礫の地中、聖女が座る穴に吸い込まれていく。


  「なんだ!?」


  異変に光を目で追う者達は、二つの穴から空に伸ばされた光の柱が、赤く光る魔法紋に突き刺さるのを見た。


  「矛が、三叉に、」


  触媒の破壊により一つ失われていた刃先が、再び三つとなり空に浮かんでいる。魔法紋の力が漲るそれにクラウンは笑ったが、誇らしく見上げた境会を護る矛は、ビシッとひび割れに瓦解した。


 

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