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  「転生者?」


  「そう。私、貴方の言う、異界から転生してきたの」


  耳元で声をひそめたリリーに、エンヴィーは驚愕に黒の瞳を見開く。それを呆然と金色の瞳は見つめていた。


「許さない…」


  ーーズゥン、パキン!


  「あ!」


  近くに落ちた一破片が、割れるとリリー目掛けて倒れてきた。


  まごつくリリーの腕を引こうとエンヴィーが手を伸ばすと、それを長剣が下から切り上げる。


  「!!」


  ーードォン……。


  飛び下がったエンヴィーとリリーの間、赤い破片が重く倒れ落ちた。


  (誰だ?)


  舞い上がった砂塵に目を凝らすと、赤い破片の向こう側には意外な人物が立っていた。


  「……セオル・ファル神官?」


  少しくたびれた格好の衣服。セオルはリリーの腕をしっかり持ち、片手に長剣を持っている。


  「姫様を、放せ!!」


  ただ事ではないナーラの声に、リリーは自分の腕を掴んだ者を見上げたが、砂塵が舞い込み痛む目をしばたたかせて、ようやく開くことが出来た。


  「セオ!?」


  「申し訳ありません。遅くなりました」


  セオルの顔を見てほっと息を吐いたリリーに、エンヴィーは首を傾げた。


  「殿、何故こちらに?」


  捨てたはずの呼称で呼ばれたがセオルは聞き流す。だがエレクトは、敵だと確信し拳を握り締め、内心では違うと願っていた自分自身に失望した。


  「境会アンセーマの結界が、崩れた異変が黙視出来ました。街は、……大変な事になっています」


  「倒れ動けない者ばかりだったでしょう?」


  「はい。これは、一体何事ですか?」


  「お一人で来たのですか?」


  「動ける人は、他には居なかった。祭司エンヴィー、皆さん、どうしたのですか?」


  この場には、いくつもの灰色の外套祭司が倒れている。そして俯き亡霊の様に立ち竦むアーナスターと、肩で息をする護衛騎士二人をセオルは怪訝に見た。


  「…………ただの、実験ですよ」


  「実験?」


  「あの魔法紋の意味を、第二王子こそご存知ではないのですか?」


  「……?」


  試すように問われたが、何の事かと首を傾げる。


  「フェアリオ、フェアリープ、二つの召喚異物に力を注入した結果、魔法紋が破壊され、異界と繋がり、呼び寄せる事に成功したのです」


  「異界とは、……まさか…と、繋がった?」


  「知っていたのですね?」


  「!!」


  やましく口を噤んだセオルをエンヴィーは皮肉に笑う。


  「卑しい血を持つためか、王族血族あなたとの関係は、私には知らされていなかった」


  「……何の事ですか?」


  「惚けなくてもよいのです。現王太子グランディアを廃して、境会アンセーマ第二王子あなたを後押しすると、聞いた事があります」


  王位継承を放棄したが、正統な王太子として境会の後ろ楯を得ている。


  「貴方がこうして、この因果律の中に居るという事は、境会アンセーマは、それを克服する術を手に入れる事が出来たのか」


  黙したままのセオルを、エレクトは絶望に見上げた。


  「まさか、貴方が境会われらと繋がっていたとは」


  エレクトは歯を食い縛り立ち上がると、剣を握り締めたナーラは怒りに一歩ずつ前進する。


  「そう、繋がってしまったの」


  いつの間にか放されていたセオルの手。それに振り返ったリリーは、深刻な顔で詰め寄った。


  「セオル、よく聞いて。空から降ってくるあの赤いやつ、あれを、どうにかしないと大変な事になる」


  話の流れを断ち切った。因果律を操作する術を聞き出そうとしていたエンヴィーは、リリーの割り込みに人の話をよく聞かないと苛立ちを隠さない。


  「令嬢、今、第二王子は私と話をしている」


  「そうよ、だから見て!」


  リリーの指差した空から、ゆっくりと確実に落ちてくる魔法紋の破片。赤外套の祭司は、身体を両断されたまま地に縫い止められている。


  真白い指が示した破片の行き着いた先、エンヴィーは、動けず倒れたままだった高位祭司に気付いた。


  (そういえば、クラウンは因果律を操作出来なかった)


  「触れれば、命を奪われるのですか?」


  リリーにより中断されたセオルへの疑問は、次の質問により更に遠ざかる。わだかまりが残るまま、エンヴィーはセオルの質問に向き合った。


  「分かりません。ただ相当に魔力を蓄えたものなので、逆流すれば、無事では済まないかも」


  「……落ちてくる速度は遅いから、まだ何とかなりそうだけど、避難する時間は短いのよ」


  立ち竦むアーナスター、よろめく護衛騎士二人と赤い破片を見つめ、リリーは一人考え込む。


  「そこで私が考える最善は、エンヴィー祭司からあれを止める方法を聞き出す事なのだけれど、」


  「ならばフェアリオとフェアリープ、二つを破壊してみて下さい」


 


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