リリー45 (十七歳)
『あのっ! こんちは!』
「?」
移動教室で講堂に行く途中、大きな声で呼び止められた。ここはけっこう通行人が多いエントランス。他のカラーの制服の皆様も、じろじろとこちらを横目で見ている。
そーだよね。悪役と
無視なんて、絶対的な意地悪は出来ないよ。だけど立ち止まっただけの私に代わって、フィオラちゃんが素早く対応してくれた。
「ご用件は?」
頼もしい。
だけど内心では、それは
くれぐれも、どんなふざけた発言を主人公が言ったとしても、私に代わってビシッて叩いたりしませんように……。
少し会話して戻って来たフィオラちゃん、微妙な顔で私を見た。
「王太子殿下が、姫様をお呼びだそうです」
私に伝わった事を確認した主人公は、頼んでもいないのに九十度に頭を下げて歩き去る。
グーさんが、私に会いたいって……。
真っ先に考えた、なんで
グーさん、仕事が忙しいから私に来て欲しいって、でもこれってきっと、イベントの一部なんじゃないかと思うんだよね…。
主人公とグーさんの間に
何処にお呼ばれしたって、関係性の薄い
(……回避は無理か……)
**
翌日。
手土産にケーキをご用意しました。
私の手作りかって?
だから私、過去世でも、炊飯器の水の量もわからないレンチン派。炊飯器にご飯が残っていたら限定の自慢の自作おにぎりは、中にマミー作のおかずをつめちゃう超時短弁当。
現在世では、お出かけ用に、パンの中にお肉やお魚をつめてみたらって自慢の時短提案したら、下の兄貴が貴族の食事のなんたるかという、長々としたメニュー説教を私に語り続けた事もある。
そうなんだよ、だから作れないって。
なのでうちの自慢のシェフのケーキ持ってきた。
可愛いホールケーキは、私にとってはペロリと一人前小さめサイズ。
これを渡したら直ぐに帰ってくるね。
「お気をつけて」
今日の護衛はメイヴァーさん。こう言ってはなんだけど、うちの護衛の皆様は、誰しもが思うモブではない。
十枝と呼ばれる皆様は、ここで恋愛ゲームが出来るよねって、くらいにイケメン勢揃いだよ。多様性の時代にも適応して、その辺のイケメンには負けないナーラ姉さんも攻略出来ます。
……なんてね。
あの長ーい廊下の手前に、彼を置き去りにして私は頑張って一人で歩く。
(……長い)
当たり前なんだけど、今日は白ウサギご居ないんだよね。だからお喋りして暇つぶしも出来ないから、余計に長さが身に染みる。
はーやれやれ、やっとたどり着いたよあの問題の近道に。
今日は危険イベントの登場人物のカップルは居ない。中庭を足早に横切って、城内に入ったところで係の人が現れた。
「ご案内致します」ペコリ。
はい、お願いいたします。
先を歩く係員の後をついていく。
開かれた扉、思ったよりも広い部屋。応接間を横切って続き部屋の執務室に入ったら、グーさんではなく、何処かで見たような、会ったことのないおじさんが立っていた。
(……誰?)
振り返ると、ここまで案内してくれた、係の人が居なくなっている。
「其方、右大臣の娘か?」
はっ!! やべ!!
思い出した。絵姿でしか見たことないおじさん。実物、雰囲気違うから分かんなかった!
「国王陛下に、黒の安息を捧げます」
慌てて腰から頭を下げたよね。
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