リリー44 (十七歳)
「ナイトグランドとの交渉は、上手くいきましたか?」
ん?
ピアンちゃんのお家と、何を上手くいくって?
(……そういえば、前にも交渉がどうとか言ってたな? あれ? この人が言ったんだっけ?)
それにしても、他の無愛想達とは違い、この人はいつもへらっと笑っている。私に何の用があるのかと思ったら、この前の休日、
チャンス。
一般生徒の皆さまが軽薄さんを恐れて居なくなった教室。タイムリーに現れて、しかもこの人、私に弱みをさらけ出している。
ここはピアンちゃんのやっていた、あの損害賠償という、カッコいい専門用語を使おうかと一瞬過ったけれど、使い方間違えた時、私がダメージ食らいそうだから止めておいた。
彼のへらっに負けないで、私もニヤリと悪役顔に笑ってみる。
そうなのよ、
その首、スパッと出来ちゃう、そんな理不尽なお貴族様の頂点に君臨する、
優しい
今回は見逃してあげるけど。
だから奴隷市場に行く、その手伝いをしてね。
そんな魂胆を隠し持つ私。
「
うむ!
私でも迷わない、詳細な奴隷市場の地図!
それで手を打とう!
ピアンちゃんの様に、キリッとクールにカッコ良く! って、護衛の二人が止めるのも聞かずに「いいわよ」してやった。
あれ?
何故か突然服を脱ぎ初めた軽薄さん。ズボンを下ろしそうになったところで、うちの護衛に攻撃された。
「っつ、」
横に立っているエレクトくんとメイヴァーさんが手を出したわけじゃないよ。
外で見張っていた仲間がビシビシッて、奴の露出行為を止めてくれた。
少し離れた所からの見守り機能は、セセンテァさんのお家の得意技。前は学院内ではしないって言ってたけれど、白ウサギの怪我により、今は見守りが強化されている。
(ふむ……)
外からビシビシって飛んできた小さな矢、話しには聞いていたけれど、窓ガラス、前みたいに粉々になることはなく、銃で撃たれたみたいに何ヵ所か小さな穴だけあいてるよ。
軽薄さん、躱したけどヨロヨロってよろめいた。でもさすがだね、よろめいたのに、カッコつけてフンッて鼻で笑って、そして向こうが悪役みたいに教室から出ていった。
「姫様……」
「平気よ」
突然の露出行為に、私よりもエレクトくんとメイヴァーさんがげっそりしてる。
お二人は、意外とピュアなのね。
平気よ。ズボンは下ろさなかったし。
だってあんなの、過去世では真夏のビーチで子供の時から見慣れてる。あんなにムキムキなのは、さすがにテレビでしか見たことないけど、爺さんからお腹の立派な中年おやじ、そして小さな子供に至るまで、海では海パン一丁が当たり前。
家でもたまに、過去世のパピーが風呂上がりにパンいちでビール飲んでて、マミーにパジャマ着ろって怒られていた。
(現在世のパピーでは、想像出来ないパンいち姿……)
お貴族様たちは、寝る時までいつも身なりがピシッと整えられている。両親の寝室に入ったことの無い私は、彼らのパジャマ姿を見たことがない。
もちろん、長椅子に寝そべってだらだら横たわる姿も見たことがない。
上の兄貴は分かるけど、そういえばメルヴィウスもだらだらしていないな…。
それはうちの、マナーにうるさい執事頭の一族が、目を光らせて壁際に待機しているからかもしれない。
私たち兄妹が、都会でだらしなくしないように、いつもパピーの傍にいたアローさんが、王都に出張してきたのも、そのためかもしれない…。
それよりも、上手くいかなかった軽薄とのやり取り。知ったかぶりで損害賠償使わなくて、本当に良かった。
結局、私の望んだ地図は手に入らず終わったんだけど、待てよ? あいつの露出、あれ、私が見せてって言ったわけじゃないよ。
大丈夫かな?
うっすら青ざめていたメイヴァーさんとエレクトくん、なんか誤解していないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます