リリー24 (十六歳)



  「もうお身体は大丈夫ですか?」


  グーさんだ。


  「……」


  「何処を見ているんですか?」

 

  やばい。主人公を探していたら、挨拶をスルーしていた。彼女の居場所確認は、もはや癖になっている。


  「ごきげんよう」


  「…………」


  あ、忘れてた。


  「王太子殿下に、黒の安息を」


  「…………」


  あれ? どうしたの? 無視するの?


  久しぶりに会ったグーさんは、何処なとなく王太子風を吹かせてる。私が少し挨拶間違えただけで、真顔になって無視しなくたっていいんじゃない?


  学院に来てからは前より社交性が増したと思ったてたのに、沈黙のグーさんが復活してしまった。


  その後はこっちが気を遣って話しかけても、やっぱり会話が続かない。しかも子供の時とは違い、ほんのり微笑もなくなった。


  (微妙……)


  グーさん、そういえば王太子就任パーティー、見送られたって今日初めて知ったんだよね。主人公もあの日から姿を見てないって、黒色メンバーズに聞いたよ。


  てっきりアフターエピソードしてると思っていたけれど、でもほら、そこは攻略対象とヒロインとの太い繋がりにより、何かしら話は進んでいるかもしれない。


  「……」


  でもグーさんて、自発的に自分の話はしないから、上手く誘導して聞き出さないといけないんだけど、今日は何だか、いつもより絡みづらいな…。


  まさか四番目から王太子にクラスチェンジしたからって、数年ポイした既読スルー、今さら追及するつもりじゃないよね……?


  「グランディア殿下、王宮から使いが来ていますよ」


  グーさんと気まずく見合っていると、救いの神が現れた……と、思ったら違った。


  かわいくない左側アトワの白ウサギだった。


  奴の登場に、挨拶もそこそこに行ってしまったグーさん。ほっと一息つけるかと思っていたら、ウサギは一緒に去らずにこっちを見てる。


  「……フッ」


  「??」


  今のって、私と目が合って、フンッて鼻息で笑ったの?


  これって、あれだよね?


  絶対、喧嘩売ってるよね?


  って顔でつっ立っているから、もちろん買ってあげる事にした。



  「ごきげんよう。お名前は、なんだったかしら?」



  真正面でメンチ斬る。わたくし、背丈では負けるけど、その他は全て勝っているので問題なし。


  ここには今、頼もしい黒色メンバーズはいない。グーさんがやって来ると、気を遣って皆は少し離れてしまうから。


  だけど私、左側てきなんて恐くない。一般人の過去世ではあり得ないほどの、大きな権力を持つファミリーの、笠をしっかり着ているのであります。


  「名乗るほどの者ではない。覚えられぬ者に、与える物は何もない」


  ……おや、こいつ、また私を馬鹿にしやがった。


  「確かに。印象の残らない者ほど、聞いても覚えられないものよね」


  見た目に個性的で印象に残りすぎるウサギキャラ。でもこの話は見た目の印象ではない。貴方とのストーリーが、全く思い出せないのです。


  きっと思い出せないありきたストーリー。


  他のゲームと混同して、全然きゅんしなくてスキップし過ぎたありきたり…。


  私、きゅんするキャラとは、出来るだけスキップしないで話を聞いてあげる派だった。


  ウサギは、絶対に、私の推しではない。


  ていうかさ、そういえば、ゲーム世界だってことは分かったけど、私の推し、居るのかな?


  いいなと思ったからプレイするのが乙女ゲームなわけだけど、今のところ胸きゅんキャラに出会ってない。


  カッコいいって常に思っているのは、身内びいきの兄たち………………。


  ハッ! まさか!


  私、兄貴推しだった?


  生まれた時から観察してるから、今さらきゅんなんてしないけど、実はグレイお兄様が小さな動物が大好きだとか、メルお兄様がちょっと潔癖なんじゃない? てくらいキレイ好きだってことに、フフッて影から観察していた事はあったけど、きゅんて何だったっけ? ってくらい彼らにキュン死にの経験もしてないけど……。



  兄貴と、ハッピーエンドしてる可能性が大。


  ヤバいな……。禁断じゃん……。



  どっちだろう。どっもあり得るイケメンお兄様ズ。でも待って待って、そうだった、主人公ヒロイン悪役わたしじゃなかった。


  そしたらお兄様たち、あのフェアリーエルちゃんと、あれやこれやあーなって……?



  (…………やだーーーー…………)



  あの主人公に、うちの兄貴たち、取られるの、やだーーーー。


  私、ブラコンだったのね。気づいていなかった。


  兄弟と恋の禁断するつもりは無いんだけど、でも、なんか兄貴たちがフェアリーとなんて、やだーーーーっ!


  「……」


  はっ、ちょっと放置していた敵の事。それから少しバチバチしてみたけど、なんかこの人ってさー、思ったよりも、よく喋るよね。


  ウサギって喋らなくてフンフンするのが可愛いのに、なんかスッゴい見た目に反してよく喋る。そういえば確か、グーさんの親戚のはずだよね?


  これじゃあんまり喋らない、グーさんの方がウサギキャラが似合うかも。


  その後もあれこれ突っかかって来たけれど、もちろん全て、言い負かしてやりました。


  強気でしょ?

 

  だって私は、もう悪役は卒業したので、攻略対象なんて怖くないのよ。


  ……主人公ヒロインだけはトラウマなので、卒業後も出来るだけ関わり合わない様にするけどね。





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