第3話 希和

「おばあちゃんごめんね遅くなって、これ頼まれていた買い物」袋を渡す。

「ありがとう、いつもすまないねえ」おばあちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあタローの散歩に行ってくるね」

「はいよ、お願いします」


歳をとった柴犬を散歩へ連れ出す。

家の近所にある公園の前がおばあちゃんの家だ、本当のおばあちゃんでは無いが、子供のころ公園で遊んでるとよくお菓子をくれた。

もう長い付き合いだ。

おばあちゃんは最近歩くのが辛くなっているので、出来るだけ協力したいと思っている。

タローの散歩が終わると、おばあちゃんは「お疲れさん」そう言って五百円玉を一つくれる。私の大切なアルバイトの一つだ。


家に帰っても誰もいない。

母さんと二人暮らしで、他には誰もいない。

お爺ちゃんとお婆ちゃんは私が幼い頃亡くなった、記憶もあまり無い。

父さんは私が生まれた時にはすでに居なかったらしい、そのことは母も話したがらないので聞かないことにしている。

美容室をやってる叔母さんから少しだけ話を聞いたが、彼女もあまり話したがらない。美容室が忙しい時には手伝っている、それも私の大切なアルバイトの一つだ。


高校を退学した16歳の私には、アルバイトをさせてくれるところはなかなか見つからなかった。

母さんは洋裁の仕事をしている、教室を開いて教えたり、持ち込まれた服の補正などもやっている。たまに発表会の衣装なども作っていた。

家は古くて幾つかの部屋があり、沢山の生地が置いてある。

私も母の仕事を手伝ってミシンを使っていた、それなりに上手くなっていたが最近は手伝う事はない。そうなったのも高校を辞めてからだ。


高校に入学してしばらくした頃、幼馴染に呼び出され城跡公園へ行った。しかしそこに待っていたのは3年生の不良で、無理矢理キスをされた。

交際しろと言われて断った。すると後輩たちに私と喋るなと命令した。その結果私と話す人は誰もいなくなった。

母子家庭で苦しい中、母は頑張って高校に行かせてくれたのに、そう思うと悔しかった。

結局高校は辞めてしまった。お金の無駄遣いだと思ったし、ずっと不良に付き纏われるのも嫌だった。

高校を辞める理由を母には言えなかった。

「自分で生きていく道を探したい」そう言って無理に高校を退学した。


それからしばらく家に引きこもっていた。

心配した母は「何かあった時の為にと用意していたものなの、これは好きに使いなさい」そう言って50万円入った封筒をくれた。

私は女の子が原付バイク乗るアニメを見て、免許を取りバイクを買った。

原付バイクがあればアルバイトできる範囲が広がると思ったのだ。

それに、近所にいるとまた不良に見つかって何をされるかわからない。


免許とバイクを手に入れた私はスマホで天空のカフェを知る。

バイク乗りの人たちが、よくSNSにアップしていたからだ。


天空カフェはこの児玉町から30分程で行ける。

運転に慣れてない私にも、車が少ない田舎道なので走りやすい。


カフェに行って勝手が分からず不安そうにしていたら、話しかけてくれたのが新さんだった。

それから暇な時はこのカフェに来た。いつもノートパソコンを開いて仕事をしている新さんといろんな事を話した。

ほとんど身の上相談になっていたかもしれない。

何となくお兄さんのような気がして話していると落ち着いた。


そんなある日、新さんは友達を紹介してくれた。

一瀬友希さんだ、彼は細身で身長も高めだ。

イケメンとまでは言わないが、カッコいい範囲内にいる。

でも、ちょっと目つきが鋭くて怖い気がした。

話をすると、優しそうな表情が出てきて少し安心する。

それに、何ちゃらプロデューサーらしくて、未来を考えられる人らしい。

私は今の状況を何とかしたいと思っていたので、この何ちゃらプロデューサーさんに助けてもらおうと思った。


新さんの彼女の綾乃さんは、このカフェでアルバイトしている。

とても綺麗な人だ、しかも社長の娘らしい。

世の中にはこんなに恵まれた人もいるんだと思った。

私を不良少女と言ってくるけどとても優しい、新さんと2人で仲良くしてくれる。

今の私にここは一番落ち着けるところかもしれない。

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