第3話
……酷い目にあった。
なんでみんなの笑われもんにならなきゃいけないのさ。
「あっ、ひのきだ」
「よー! ひのきがーる! 元気出せよー!」
すれ違う人にいじられるし、もう嫌だ。
伝説級の武器ならともかく檜って。
あーあ、レイは選定の剣なのになぁ……
私と同じ生活をずっと送ってきたのになんでだろ。
……正直言って羨ましい。
ちょぴっとだけ、自分にも凄い武器をくれるかなーそれで、チヤホヤされないかなーなんて思ったけどそんなこと無かった。
「おっ! ひのきちゃんじゃん!」
「あーもう! しつこい!」
あまりにも弄られすぎてイラついていた私の堪忍袋の緒が切れた。
手を上げて獣のような顔をした私を見て彼はクスクスと笑う。
「あーごめんごめん、ひのきちゃん」
げえっ!? 何だこの煌びやかなオーラ!
見たことの無い綺麗なオレンジ色の髪の少年が手を合わせて軽く謝ってきた。
他の生徒とあまりにも違う雰囲気だったので、私はヒヤリとした。
身なりも良いしまさかこの人貴族なんじゃ……
「おい、何やってんだファイン」
聞き覚えのある声、まっ、まさかこの声は!?
「えっ、エイル様……」
後ろをくるりと振り返ると、黒髪の煌びやかな王子様が腕を組んで目の前の彼を見ていた。
「君は……確かひのきの……」
「あっ、はい、はははそーです」
その認識に少し顔が曇る。
またひのきかよ。
王子に認知されてるけどあの場所で爆笑をかっさらった人って思われてるよ。
「おいおい、兄貴ぃ、彼女可哀想だろ、ただでさえ武器がひのき……ぶぶ、ひのきのぼうなのにふふっ! いじっちゃ可哀想だろ!」
なんなんこいつ!?
というか、兄貴!?
こんなヤツが王族!?
そもそも、エイル様に弟なんていたっけ……?
「兄貴じゃない、お兄様って呼べ品がないぞファイン」
「へーい」
「……愚弟が失礼した、シェリー・モルドレッド殿」
「いっ、いえ! ゴールドプラント殿下! その、私もファイン様を殴ってしまったのでおあいこです」
ぺこりと頭を下げるエイル様に慌ててそう言ったら、オレンジ色の少年はケラケラと笑う。
「そーそー、こいつ俺の事殴ったんだぜ~」
「おい、お前の自業自得だ」
「ひいっ、怖い怖い。お兄ちゃん怒んないでよ、新しい王が現れたからってさぁ」
「その話をするな!」
ファインが彼をからかうようにそう言うと凄い剣幕でエイル様は怒鳴った。
「うっわ、ごめんって! あーひのきちゃん! なんか言ってやって!」
私の後ろに隠れて彼の前に私を押し出した。
ふざけんなこのアホ面。
こいつが王子の弟だぁ?
なんだこの品のない王族は!
貴族の風上にも置けん!
「私は、檜じゃありません! 喧嘩したなら自分で謝りやがりなさい!」
イラついた私は彼を無理やりエイル様の前に差し出した。
「ちょっと! ひのきちゃん!?」
「だぁから、ちゃんと名前を呼びなさい似非貴族。貴方本当にエイル様の弟ですか?」
「んなっ!? 俺の事知らない訳!?」
「知らん!」
そんな私達なのやり取りを聞いていたエイル様は、クスクスと笑い始めた。
「はーっはっは! 言われてるぞファイン! いつも戦闘ばかりして社交界にでないからだ! 国民にはお前の事など認知されてないってさ! だからお前は王になれないんだよバーカ!」
気持ちよく煽るなエイル様。
すっげえいい笑顔だし。
プルプルと肩を震えさせるファイン。
「うるせえ! バカ兄貴! 女の子達からモテやがって! 婚約者いるくせに成り上がり貴族に手を出しちゃってさぁ! 王様の自覚たりないんじゃない!?」
「んだと、クソ愚弟!」
急に始まる兄弟喧嘩。
うん、ここにいたら邪魔だ逃げよう。
こいつらほっぽってとりあえず教室に……
「おい待てよひのき! お前のせいでこうなったんだぞ!? 助けろ!」
「ふざけんな! お前の自業自得だろ!」
「あー! 王族にそんな口聞きやがって、不敬だ! 不敬罪でしょっぴいてやる!」
「はぁああああ!?」
「悔しかったらその檜で何とかしろよ!」
「あぁ! 何とかしてやるよ!」
啖呵をきった私は、ひのきのぼうで思い切り彼をポコポコと叩いてやった。
「あーはっはっ! いいぞ! ひのきの女! やれ! もっとやれ!」
「ちょっ、やめ! ひのきのくせに!」
ギャーギャー騒ぐ私達。
そのせいで人が集まってきている事に気づかず、いつの間にか醜い姿を人々に晒していた。
「ちょっと! これは一体何事ですか!」
母親が怒るみたいな声が聞こえたのでピタッと止まって振り返る私達3人。
「全く何をやっているのですか、エイル様ファイン様」
「「げっ、モルガナ」」
「モルガナ様ぁ!」
顔を引き攣らせる2人と目を輝かせる私。
それを見て彼女はどうしたらいいのか分からない顔を見せる。
「えーっと確か貴方は……」
「シェリーです! シェリー・モルドレッド! ひのきのぼうの人です!」
「あっ、えぇ、ご存知ですわよ。先程は、素晴らしかったですわ、あの空間を一気に自分のものにされて」
かっ、感激。
推しに笑顔を向けられた。
しかも認識されてた……ふっふへへへへ!
「なぁ兄貴なんでこいつ喜んでんの……?」
「さぁ、そういうものなのだろう」
「ところで皆さん? 先程まで何をしていらたの?」
「えーっとその……ねぇ? 兄貴」
「なぁ? 弟よ」
彼女が冷たい微小を浮かべると2人は誤魔化すようにへへへと笑う。
「はぁ……まぁいいですわ」
「そっ、それじゃー俺は教室に行こうかな! じゃあな兄貴達!」
「あら? ファイン様私達クリスタル学科はA棟ですわよ?」
「んっ? あー! 俺ブロンズ学科なんだわ! つーわけでひのきちゃん行くぞ!」
「えっあっ!? ちょっと!?」
私の手を引いて彼は教室へと向かった。
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