第24話 鹿波ちゃんを攻略しよう!

 深夜1時。

 みんなは自室で寝ているが、僕は王様ゲームの時のキスが頭にこびりついて、どうにも眠れなかった。

 

 なので、さっぱりしようと、風呂場に向かった。が、先客で鹿波ちゃんが浸かっていたのであった。


 かぽーん


 別荘のお風呂はまるで、温泉施設のような広さを誇っている。


 そんな広々とした空間で湯船に並んで浸かる僕たち。


「ねぇ、鹿波ちゃん」


「どうしたの、大晴」


「本当にこれで3人とも落とせたのかな」


「ええ。キスに夢中になっていたし、最終的には目がハートになって、私が止めなかったら、大変なことになっていたわ」


 確かに、鹿波ちゃんが止めなければ、あのまま童貞を卒業していたかもしれない。


 そのくらい、堕ちた時の彼女たちは凄かった。


 生徒会の3人は攻略完了。

 次のステップに進める、と言いたいところだけど……。


 ——鹿波ちゃんを攻略していない。


 鹿波ちゃんは僕のことを夫に貰ってくれると言った。


 すごく嬉しかったし、ハーレムメンバー第一号と確信していた。


 だが、彼女が僕を好きとは限らない。

 僕は……鹿波ちゃんに好きだと言われたことがなかったから。


 くの仔ちゃんが言っていた。


『鹿波様はなんでもこなせる優等生です。ただ一つ、弱点があるとすれば……自分の思い通りにいかなかった時』


 今までは鹿波ちゃんの指示通り動いているため、彼女の思い通りにいって当然。

 

 鹿波ちゃんはあの日、「もし、失敗しても私が大晴を夫に貰ってあげるわ」と言っていた。


 なら、その逆のことを言えば、何かしらのボロが出るはず。

 

 仕掛けるなら、3人を攻略した今。

 

「鹿波ちゃん、僕さ」


「ん?」


「ハーレムを作るのに成功したから……奥さんいらないや」




(鹿波視点)


 攻略済みゲームを提案した理由。


 1人でゆっくり考えた結果——大晴を裏で独占する優越感に浸りたかったと出た。


 と、同時に気づいてしまった。

 結局、得られるのは優越感だけ。


 迫られたり、デートをしたり、彼からキスされたり……。


 思い返せば、大晴にそんな事されたことはなかった。


 それは、恩人という権利に縋った末路。


 本当は大晴に言って欲しかったのだ。


『鹿波ちゃんが1番だよ』

『やっぱり鹿波ちゃんがいないとダメ』

『鹿波が好きだ』


 ……ああ、私は余裕ぶっていたせいで、1番遅れていたのだ。




 静寂が続く。

 

 ……これは選択を間違えたかな?


「僕、先に上がるね」


 次の作戦を練るために湯船から上がろうとしたが……


「私のこと、見て……」


 鹿波ちゃんが僕の腕にしがみついてきた。

 柔らかな感触に、ふわりと香る良い匂いによって、僕の意識が一気に彼女に集中する。


「……大晴」


 悲しそうに、でも甘えるように目を細め、湿った息が顔にかかる。

 

「ごめんね、鹿波ちゃん。さっきのは嘘だよ」


 僕は両手で鹿波ちゃんの顔を挟み、そして、唇を重ねた。


 唇と唇が軽く触れあって、数瞬の後に離れる。 


「私……大晴のことが好きなの。大好き……っ」


 鹿波ちゃんからの始めての、好きの言葉。

 思わず頬が緩む。


「鹿波ちゃんありがとう。あの日僕を拾ってくれて。そして、僕のことを好きになってくれて。僕にとって鹿波ちゃんは1番目に好きになった女の子。けれど、僕はみんなのことを愛したいから、1番に愛を注げるかは分からないけど……一生大切にすることは間違いないから」

 

 彼女の目を見て真っ直ぐ告げる。


「一生……。その言葉、忘れないから」


「うん、約束するよ」


 微笑み、再びキスをする。


 鹿波ちゃんの気が済むまで、僕は彼女にキスをするのであった。

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