第17話 イケメン、滅べっ!
「香久山さん遅いね」
先に店を出て待っているが、一向に帰ってこない。
「お手洗いかな?」
「まぁここで待っていれば大丈夫だよ。それより、今度は私と2人で出かけてくれないかな?」
上目遣いでそう言われたら、断ることなんてできないよね。
「もちろんいい——」
「——離せってばッ!!」
返事をしようとした時、そんな鋭い女性の声が、耳に飛び込んできた。
反射的に目を向けると、男女が言い争っている。
と、いうか女性の方は香久山さんだ。
「俺が構わなかったからってそんなに怒らないでよ、美奈」
にこやかな笑顔を浮かべる短髪の男。
彼の周りには可愛い女の子が4人もいる。
「春人、こんないかにもビッチそうな女に構わないでよ〜」
「そうそう。ラブホに連れて行かれて、怖い目にあっちゃうよ?」
「あはは、大丈夫だよ。美奈は見た目と違って優しい子だから。ね?」
春人と呼ばれる男は、茶髪でかなりのイケメン。
一言で表すなら、漫画の主人公っぽい。
なんか前世でいたハーレム主人公みたいなクラスメイトに似てる。
「これからみんなでランチに行くんだけど美奈もどう?」
「行くわけないだろ」
「うん、分かるよ。みんなと一緒なのが恥ずかしいんだね。なら2人っきりでどうだい?」
凄い。
この人、人の話を聞かないタイプだ。
聴難どころじゃない。
春人くんは、香久山さんが迷惑そうなオーラをどれだけ放っても気付かないフリをしてアプローチを仕掛け続ける。
流石に痺れを切らした香久山さん。
「いい加減にしないと殴るぞ!!」
「それは怖いや。でも俺に暴力を振ると捕まっちゃうよ?」
「チッ……」
ただでさえ、男が少ないこの世界で男性を傷つけたとなると、逮捕に匹敵するくらいの大事。
「俺さ、美奈に感謝してるんだ。中学の頃、不良グループに襲われそうになったところを助けてもらって」
「だから何度も言ってるだろ。あれはたまたま。アイツらがアタシのことを勝手に怖がって逃げただけ」
「照れなくてもいいよ。俺はあの日、君に恋したんだ。それから美奈の気を惹くために不慣れなオシャレや勉強、さらには女の子との付き合いをして、喜ばせ方を学んだ」
1人語りしている。
香久山さんは心底興味なさそうだ。
「君が望むこと、今なら叶えられるよ。こんな女たちは捨てるから俺と付き合おう!」
決まったとばかりに、手を差し出し渾身のドヤ顔。
春人くんの言葉に周りの女の子たちは困惑。
香久山さんの気を惹くために利用されていたと気付いたから。
美少女はべらせておきながら、本命の子ができたからポイ捨てだと……?
……僕に喧嘩売ってるのかな?
「さぁ、美奈。今日こそ俺のもの——」
「——パンチっ!」
「ブハッ!?」
くさい台詞の途中で思わず顔を殴ってしまった。
瞬間、場が絶対零度に凍りつく。
「日浦……」
「お、俺の顔を殴るなんてどこのどいつ——へ? 男?」
尻餅をついた春人が僕を見上げる。
イケメンに相応しくない間抜け顔。
今まで見てきたイケメンの中で1番ムカつく。
イケメンで性格のいい主人公を見習えっ。
「女の子を物みたいにポイ捨てするな! 少なくとも彼女たちは君を慕ってついてきてるんだから大切にしろっ!!」
凡人でヘタレで童貞で女友達の1人もいなかった僕からしたら、この世界はまさに都合のいい理想の空間。
凡人の僕でさえ、キャーキャー黄色い歓声が上がる。
けれど、そんな当たり前に飲み込まれたら終わりだと思っている。
調子に乗りすぎると痛い目に合うしね。
すると、香久山さんは僕の腕を組み。
「アタシは……コイツと付き合ってるからっ!!」
そう言って、春人くんをしっ、しっ、と手で払った。
「くそぉぉぉぉー!!」
やっぱりこの世界の男って弱々しい。
涙を浮かべながら春人くんは去っていった。
女の子たちを置き去りにして。
「あの……」
申し訳なそうに目尻を下げる4人。
可愛いは無罪。
美少女は特に無罪。
ゆえに彼女たちは何も悪くない。
「君たちみたいな可愛い子ならまたいい人が見つかるよ」
出来るだけ満面の笑みで対応する。
これで綺麗に終わる。
そう思っていた時、今まで黙っていた立夏ちゃんが口を開いた。
「そういう大晴くんも、女の子の扱い雑だと思うなぁ〜。私なんて2番目の彼女になってよ、とか言われたし」
……ちょっと待って。
何故いきなり爆弾を放り込んでくるんだ君は。
香久山さんが貼り付けたような笑みのままこちらを見つめてくる。
「へーえ? 初耳なんだが? ……どういうことか説明してもらおうか?」
「いや、その……」
◆
場所を移動し、公園にて。
「ええええええええ、そうだったの!?」
香久山さんの彼氏がいるというのは嘘だったらしい。
寝取りっぽいことやらずに済んだことは素直に嬉しいけど……。
「彼氏でもない奴にあんなにしつこく弁当渡さないだろ、普通」
九空学園に通う女の子たちの価値観は、前世よりかもしれない。
「たくっ……ほんとに鈍感だな、日浦は」
立夏ちゃんが追い打ちをかけるようにうんうんと頷く。
「でもまぁ、ありがとうな。助けてくれて」
香久山さんを助けにいったというよりは、イケメンくんにムカついたからなんだよね。
「で、さっき立夏が言っていた2番目の彼女というのはどういうことだ?」
「そのままの意味だよ、美奈。大晴くんは今、2番の女の子を募集しているらしい」
「なんだそりゃ。なら、アタシも2番目とやらになってやろうじゃないか」
「え………」
こんなにあっさりと決まっていいの?
「2番目の意味はわからないが、少なくとも、他の女子よりは扱いが良くなるんだろ?」
「良くなるって……」
僕は誰にでも優しくしてるつもりだけどな。
「って、ことでよろしくな、大晴」
「よろしく、美奈ちゃん……」
立夏ちゃんに続き、美奈ちゃんまであっさり彼女になった。
2人ともチョロいんなのは……どうして?
◆◇
(美奈視点)
普段はヘラヘラしていて、弱っちそうだけど……。
『女の子を物みたいにポイ捨てするな! 少なくとも彼女たちは君を慕ってついてきてるんだから大切にしろっ!!』
……カッコいいとこあるじゃん。
やっぱりアタシ、大晴が好きなんだよなぁ。
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