第1話 女子が冷たい学園

 僕の通う【私立九空学園】は、幼い頃から英才教育を受けてきたお嬢様、もしくは勉強やスポーツなどで実績をあげてきた将来有望なエリートが集まっている。


 ちなみに全員美少女。

 女の子が容姿端麗なのは当たり前らしい。


 例外として僕のような男子がいる。

 性別が男なら誰でも入れるのだ。


 今年の入学者200人のうち、20人が男子生徒。


 男子が20人もいる学園なんて、ここぐらいだろう。

 それだけこの学園に入りたがる男子がいる。


 何故なら女子がベタベタ媚び媚びしてこないから。女子嫌いにはもってこい。


 僕は媚び媚びスタイルが良かったんだけどなぁ。



 *****


 僕が住んでいるのは女子高生みたいな母親とデレデレ懐いている妹がいる家庭ではない。


 学園が運営している寮だ。

 実質、1人暮らし。


 朝。

 携帯から鳴り響くアラーム……ではなく着信音。


 表示されている名前は『九空鹿波』


「んん……はぁい……起きたよぉ……」


『はい、よく出来ました。おはよう大晴』


「おはよう鹿波かなみちゃん。今日も起こしてくれてありがとう……」


『自分のついでだからいいわよ。夏頃にはそっちに帰れそうだから、ちゃんと頑張るのよ』


「はぁ〜い」


 と、すぐに通話は切れた。


 彼女は九空鹿波くそらかなみ

 僕の一つ上の女の子だ。


 僕がこの学園にいるのは、彼女が理事長の娘で強制的に入れられたから。

 その鹿波ちゃんは今海外に行っている。


 彼女は貞操逆転世界で迷っていた僕を拾ってくれた恩人だ。


 目覚めたのが、王道の病院じゃなくて、公園のベンチだったなんて……神様は僕のことをなんだと思ってるだッ!!

 

 でも鹿波ちゃんみたいな美少女と仲良くなれたのはありがたい。


 ありがとう神様!!



 制服に着替え食堂に向かう。

 8人掛けテーブルが何個も並んでいて一度にたくさん入れそうな広さ。


 入ってきたことに気づいた女子の視線が僕に注がれる。

 

 慣れたので特に気にせず、タブレットで日替わりメニューを選ぶ。


 今日のメニューはサンドイッチとサラダとコンスープ。


 僕が美少女にサンドイッチされたいよ、トホホ……。


 周りを見るも男子は僕だけ。

 何故なら男子はわざわざ食堂にきて食べないから。

  

 男子は食事を自室に届けてくれるというサービスがある。

 

 移動しないで済むのはいいけど、やっぱり美少女たちとご飯食べたいじゃん。誰も喋ってくれないけど。


 朝食を受け取り、会話している女子から離れたところに座る。


 サンドイッチうまうま……スープ美味しい……。


「やっばっ! もうこんな時間!」


「朝練始まっちゃう!」


 何やら斜め席の女の子たちが部活と時間が迫っているのか慌てた声を上げた。


「そんなに急いでいるなら、僕が片付けておくよ」


 顧問の先生とかに朝から怒られたら嫌だしね。


 急に話しかけたのが悪かったのか、女子生徒はポカーンと固まっていたが、すぐに調子を取り戻し。


「だ、男子がいるならそうよね……!」

「さ、先に言いなさいよっ!」


 ガシャンガシャン、と僕の前に空の食器が入ったトレーが置かれていき、足早と去っていった。


 ツンデレな美少女が多いことで。


 騒がしかったのか、食堂にいる生徒が食べる手を止め、こちらを見ていた。


 なんか変に目立ったし、さっさと部屋に戻って学園に行こう。


 食器を重ね、持っていこうとする途中、女子生徒が声を掛けてきた。


「日浦くん」


「七崎さん。なに?」


 茜色のポニーテールが可愛い彼女は七崎立夏ななさきりっか

 生徒会のメンバーの1人だ。


「目立つ行為は控えるように」


 目立つというか、親切心なんだけどなぁ……。


「ごめんごめん」


「ごめんは一回でいいです。ほら、もう行って」


「はぁ〜い」


 この学園の女の子たちはほんと、ツンケンしてるな〜。



 *****



 大晴が去った後、食堂の中が誰もいないかのように静まり返る。


 少し経ってから誰かがポツリ。


「日浦くんって……やっぱりカッコいい!」


「あのさりげない行動みた!? 男の鑑よねぇ〜」


 先程の冷たい雰囲気と打って変わり、きゃあきゃあと騒ぎ出す。


 彼女たちも根はそこら辺にいる女の子たちと同じ。男性に興味があり、あわよくばお近づきになりたいと思っている。


 だが、この学園では男子に媚びたり優しくしたりするのは極力禁止。

 普段はクールぶっているが心の中はいつもハイテンションなのだ。

 

 貞操逆転世界では男が優しいことはとても珍しい。 

 なので、大晴のように自分から優しくしてくるタイプにはチョロいようで、学園の男子の中で一番人気を誇る。


 大晴に話しかけられるだけで、嬉しがる女子がほとんどだろう。


 先ほど大晴を注意した七崎立夏もその1人。


「……日浦くんと話せた。やったぁ」


 頬を赤らめ、喜んでいるのであった。

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