第23話 やることだらけ

 するとすぐに、スーツを着たSP風のガタイの良い男が二人やってきて、怖いお兄さん四人に何かを話した。


 そして突然お兄さんたちは俺に頭を下げ、「申し訳ございませんでしたー!」と声を揃えて謝罪してきた。


「いやいや、急にきた俺もアレだし……、気にしないでくださ〜い」


 と言って軽く笑顔を向けると、俺はSP二人について歩く。


 豪邸の中に入り、靴を脱いだ。そしてまた、SP二人を追って曇神海斗どんしんかいとさんの元へ向かって行く。


 途中、死体っぽいものや怪しい粉っぽいものを見かけたが気のせいだろう。気のせい気のせい。


 そして長い廊下の角を曲がると、お兄さんたちが何人か、ある部屋の前で直立している。ああ、今日もこの部屋ですか……。


 そしてその部屋の真前まで来ると、中から「開けろ」と言う声が。お兄さんたちが素早く部屋の障子扉を開ける。


 そこに青色のシンプルな和服を着て畳にあぐらをかいて座っている三十代前半の男。多少長めの黒髪はがっしりと固められ、おでこは完全に出ている。髭は生やしていない。

 

 そして何よりイケメンでイケボ。これでスーツを着ていれば敏腕若手社長に見えるだろうし、ちょっと洒落た格好をすれば完全にイケメン俳優に見える。まぁ、整っている人って何を着たって様になるよね。


 俺は少し深めに頭を下げる。


「どうも〜急に申し訳ございません」

「いや、こちらこそすまない。番の奴らには制裁を加えておく」

「は、はは〜、お手柔らかに〜」


 この世界の制裁とは半死にのことだ。

 

 それにしてもこの人は俺が同じ歳になったとしてもとても真似できないほど迫力と落ち着きがある。そして、イイ声! やだ、聞き惚れちゃうわっ!


「まぁ座れ」

「あ、失礼しま〜す」


 俺は小さな四角い木製テーブルの海斗さんの向かい側に正座する。


「それで、こちらから呼んだわけではないのにどうしたんだ?」


 海斗さんは怪訝そうに聞いてきた。くぅ〜イイ声だ! 

 

 それはそうと、なんで俺がこの人と面識があるかというと……俺が裏社会の依頼をバンバン解決してきてるからだよったく! もうこの人の依頼を何件解決してきたことか。

 

 まぁその分パーティー(結構グレーなやつ)とか誕生日会(結構ヤバめなやつ)に呼んでもらったりしてるけどさ。あのパーティーも誕生会も、金の出どころがやばいんだよ……。まぁ悲しいことにそんな社会にももうとっくに慣れてしまったけど。


「一つ、こちらからお願いがあるんです。下っ端の女一人を解放してやってくれませんか?」

「名前は」

「……瀬渡友香せわたりゆかです」


 すると、海斗さんは幹部に名前をメモさせた。


 少し言いずらそうに聞いてしまったのもあってか、彼はニヤッと笑う。


「もちろん、こちらにも利益があるんだろうな?」


 まぁそう言う展開になるとはこっちも予想していた。


「ええ。もちろんそうなるようにさせて頂くつもりですよ〜」

「だが、あのお前が俺に頼み事をしてくるなんてよっぽどのことらしいな」

「……そうなんですよね」


 確かに俺は必死だ。まず、花火の正体を知りたい。だがそれを知るためには花火の依頼を解決しなくては何も始まらないだろう。そして事件の解決には首謀者である花火のお兄さんを見つけなくてはならない。そしてそれに「変な物」カタログは必要なわけで……。


 結果、そのために瀬渡とあの約束をしてしまったのだからやることだらけである。


「では、今お困りのことなどは……!?」


 そう聞くと、なぜか海斗さんは困ったような顔をした。


「……お前、侮蔑兵器ディスパイズウェポンって知ってるか?」

「ええ……。知ってはいますが」

「そうか。それは俺の舎弟、機村催魔きむらさいまが作っているんだ」

「機村さんが!?」


 俺は機村さんを知っている。たしか三十歳くらいで、茶髪で服装も含め身体全体からチャラさが溢れ出すが、実は誰よりも曇神組を大切に思う人だ。


 海斗さんは困り顔のまま続ける。


「実は……機村が反乱を起こそうとしている」

「え……!?」

「お前が驚くのも分かる。だが、機村が大切に思っているのは組長の俺じゃない。この曇神どんしん組だ」


 そう自嘲気味に海斗さんは笑った。


 つい数年前まではこの曇神組の組長は海斗さんの親父さんだった。なら、組長が変わればその新しい組長に反感を抱く者が現れるのはよくあることだろう。


 ――いや、待て。俺は先程、九年前の火事が侮蔑兵器によるものだったかもしれないということを知った。


 本当にそうだった場合、少なくとも九年前から機村さんは侮蔑兵器を製作していて、そしてその頃からずっと海斗さんを殺害しようと考えていたということになる。海斗さんが組長になるのがそんなに嫌だったのだろうか……


 海斗さんは頭を掻きながら言い放った。


「……だから、俺たちが困っていることはそれだ」

「なるほど……」

「俺も精一杯親父の後を継いでいるつもりだが……何がいけなかったのだろうか」


 そう呟いた海斗さんの言葉はとても心に響いた。でもそれは当然だろう。なぜならこの人だって、曇神組を心から思っているのだ。


 それに海斗さんは、舎弟として機村さんをとても気に入っていた。本当は嫌われているということはもちろん知らずに……


 本当は俺はこの内部抗争を止めてやりたい。でもいくら俺がこんな能力を持っているとしても、たった一人のどうにかできる問題とは到底思えない。どうしたものか……


「ちなみに機村さん側についているのはどれくらいなんですか……?」

「……組の半分だ」

「半分!?」


 完全に分裂しちまってるじゃないか! どうやら機村さんは本気のようだ。


 突然、海斗さんがポンと手を打った。


「俺は一度、機村と話がしたい。しかし居場所は分かるのだが、厄介なことにあいつらは侮蔑兵器を所持している。だから今近寄っても俺たちは殺されるだけだ」

「そう、ですね」

「だから、機村を止めろとは言わない。侮蔑兵器を一掃してくれるだけでいい。そうしたらお前の言うその女を脱退させてやる」

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