第10話 女子高生と潜入調査
「はい、楽しそうなんで。学校の案内もしますよ〜」
そんな軽いノリで言われてもなぁ……。まぁでも、学校だし銃弾とかは無いだろうから安全ではあるか。
「じゃあ、頼むわ」
こうして俺たちは店を出た。あれ、結局花火、あのコーヒーどうしたんだ……!?
一応制服が見えるようにコートのボタンは開け、鹿撃ち帽はいつも持ち歩いている手提げ鞄に入れた。
そして、花火と一緒に校門に入る。ここは都立なので私立ほど校舎は綺麗ではないが、それでもそこそこは手入れがされているようだ。
「探偵さん、一応高校生っぽくは見えますねっ」
「二十代のうちは服装変えればギリギリ誤魔化せるんだよ」
俺、あと四年で三十か……。別に歳を取るのはしょうがないし別にいいんだが、調査で制服を着た時に感じる虚しさのような感覚が年々強くなっている気がするのは気のせいだろうか。
「それで花火、平井健太がいるであろう木はどこなんだ?」
「まだまだですよ〜。かなり学校の奥なんで」
「そうか……あ」
その時、四、五人で固まっている生徒たちと真正面からすれ違った。しかし彼ら彼女らは全く俺たちに違和感を感じずに普通に通り過ぎて行った。
どうやら自然に潜入できてるようだ。隣に花火がいることも大きいだろう。
「ところで、花火って何年生なの?」
そういえば聞いてなかった質問に、花火は待ってましたとばかりに手でピースをした。
「二年生です! 部活は天文部!」
その手はピースじゃなくて二を表していたんだな。部活といえば、今もグラウンドを始め校舎から少し離れたテニスコート、体育館などから学生たちの青春の声が聞こえてくる。そしてそこに、校舎から聞こえる吹奏楽部の練習の音が重なるのだ。実に素晴らしい……わけねぇだろ。少なくとも俺にとっては。
「あ、花火ー!」
遠くから女子生徒の声が聞こえてきた。そしてその子は近づいてくる。
それに対し花火は一瞬ギクッと顔を引き攣ったが、すぐに動揺を隠すように作り笑いを浮かべた。
「き、
「いや花火こそ、さっき帰ったんじゃ?」
「えっと、忘れ物しちゃってねー」
花火の友人だろう。俺はそっと近くにあった自販機に向かい、「花火とは他人ですよ」感を出す。
「で、その人誰? あんな生徒うちの学校にいた?」
「……え!?」
ダメだったようだ。栄崎さんはおそらく俺と花火が一緒に話ながら歩いていたところを見ていたのだろう。
チラッと花火を見ると、彼女は何と返答すべきか分からず斜め上を見つめて固まってしまっている。
それにしても栄崎さんさ、そんなことを花火に聞くってことは自分の通っている学校の生徒全員の顔を記憶しているということだろ?
化け物じみた委員長キャラ出現しちゃったよ!
でも大丈夫! こんな時はこれ! 「自然な返答〜!」
俺は彼女たちの方に戻り、美しいほど自然に言った。
「え、俺すか? 三年の佐藤ですけど……?」
「ああ、そうなんですね。それで、なんでコート羽織ってるんですか?」
「極度の冷え性なんですよ」
「なるほど」
多分だけど大成功! 人間なんてこんな風に簡単に納得してしまうものなのだ。
しかし安堵したのも束の間、危機はまたすぐにやってきた。
栄綺さんは顔を花火の耳元へ近づけた。
「ねぇ花火、さっきまで仲良く話してたしそれに今の慌て様、もしかして彼氏?」
全部聞こえちゃってますよー。ってゆうか、あえて俺にも聞こえるようにしてんな栄崎さんのヤツ。
花火は顔を朱色に染めて大きく左右に振った。
「いやいや! そんなことは……」
「なに〜? 顔赤くしちゃってぇ!」
なぜ否定せず動揺してんだ花火! あと栄綺さんのいう通り、なんで顔赤くしてんだよ、余計怪しまれるだろ!
……やばいぞ。このままだと全校生徒の顔を記憶している化け物に、完全不法侵入中の俺が花火の彼氏だと認識されてしまう可能性がある! こうなったらヤケクソだ!
どうにか変な誤解を生む前に……逃げる!
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