第7話 何故か彼女は現れる

 *** 


 山手線に乗って隣の駅で降り、俺は調査の現場に向かっていた。場所は隣町の高校。さっさと片付けないと。


 依頼人は平井夏子さん。高校生の息子さんがここ数ヶ月、毎日傷だらけの状態で帰宅するのだそうだ。しかし本人は何を聞いても全く答えてくれないらしい。当然、学校にも連絡したそうだが、何も変化は無かったそうだ。


 もしかすると、校長らが自分たちの学校の体面を保つためにあえて見て見ぬ振りをしているのかもしれない。


 それはそうと、息子さんが「毎日傷だらけの状態で帰宅」だってよ……。やっぱり俺に、「浮気調査」だの「ペット探し」だの、平和な依頼はやって来ないみたいだわ……。


 その息子さん、平井健太の通う学校は大都会に位置する都立高校だが、表通りからは少し離れていて人通りはあまり多くない。遠くから車の騒音がなんとなく聞こえてくるような場所のようだ。


 余談だが、俺が通っていた都立高校はその表通り沿いにある。……今は依頼の解決に集中だ! 久しぶりにこの辺りに来たからと言って簡単にあの頃の黒歴史を思い出す程俺は……やわなのだ。思い出したく無いよ〜!


 午後三時半、校門前に到着。だが生徒の帰宅時間までまだ少し時間がある。


 なので俺は学校の斜め向かいにある、シックな店構えのカフェに入った。てか、なんでこんな裏道にカフェがあるんだよ。あれか、学校帰りの生徒を狙ってるのか?


 アイスコーヒーを購入して店内を見渡す。現在ほぼ客はいない。俺は校門を一望出来るガラス正面のカウンター席に腰掛けた。

 中はどこかで聞いたことがあるようなクラシックが流れていてオシャレで都会感あふれる雰囲気だ……ホントなんでここに作ったんだよ。まぁ、ここで時間を潰すとするか。


 午後四時十分。次々と生徒が校門から出て来だした。


 おそらくいないと分かっていながらも、一応依頼人からもらった平井健太の写真と一致する生徒を探す。


 いなければ学校への不法侵入をするだけのことだが、それをするのは帰宅部の生徒たちが帰り終わった後だ。


 気づくと、店内が騒がしくなってきていた。続々と生徒たちが入って来たようだ。ほぉ〜、やっぱり生徒狙いだったのか。生徒たちからしたら放課後のティータイムだ。軽音楽部と関係がありそう。


 午後五時。校門から人の気配が無くなった。おそらく学校に用のない生徒は全員帰っただろう。

 よーし、潜入捜査するかぁ……


 そう思い立ちあがろうとした時、後ろからツンツンと誰かに突かれた。もうそれだけで、誰が後ろにいるのか分かった。俺を突けるのなんて今のところ彼女しかいない。

 

「鹿撃ち帽に茶色のコート……、外ではこんな格好で行動してるんですか〜」


 聞こえてくる間延びした声。ゆっくりと振り向くと、黒髪セミロングに二つのヘアピン、やっぱりそこには花火がいた。なんか無駄にドヤ顔だ。衣服は制服に通学バッグ、昨日と同じ格好である……って、そこの高校のやつじゃん。


「お前、ここの学校だったん?」


 尋ねると花火は、はぁ……となぜかため息を吐いて「んっ!」と言いながら自分の胸を指さした。


「これ、見りゃ分かるじゃないですかー」


 いきなりなんかちょっとイラッとくる言い方だなおい……。

 なので俺もちょっと冗談半分でからかってみることにした。


「え、何、俺を誘ってんの? 生憎だが俺はガキに興奮したりはしないぜ!」

「…………どういう意味ですか?」


 ポカーンとした顔で首を捻る花火。


「だからなんでご自身の胸を指さしてんの?」

「……へ!?」


 花火は突然固まったかと思えば、ギロっと俺を睨んで捲し立て始めた。


「な、なに言ってんの探偵さーん! 私をそんな目で見てたんですかぁ〜? 警察呼びますよぉ!? それよりガキってなんですかガキって! 私のどこがガキなんですか!? ……私だってね、そこそこ……あるんですよ……!」


  軽く息切れしてんじゃねぇか。てか、一番癇に障ったのは体型についてなのか……。でも大丈夫、昨日ちょっと見えちゃったから知ってる。


 頬をプクッと膨らませて睨んできている花火。ハムスターみたいでちょっと可愛いなおい……。


「おいおい、ごめんって」

「聞こえなーいでーす!」


 花火は耳を塞いでかぶりを振った。一見ご機嫌斜めそうに見えるけど、こいつ絶対楽しんでるな……は! からかったつもりがいつの間にか俺が花火のおもちゃにされてるぞ! ……ぴえん。


 

 

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