523:朝ちゅんちゅん

 次の日の朝。昨日はとんでもなく、よく眠れた気がする。食事もそこそこに、寝室に引きこもり……イロイロとアレでアレな後。

 やっぱり、自分で納得したベッドって体力回復半端ないよな……と思いつつも、起き上がる。


「おはようございます」


 うん。


「おはよう」


「よく眠れましたでしょうか?」


「ああ。よく眠れた」


「良かった。貴子さんは既に、朝の用意を」


 速いな……。


「森下は?」


 彼女は……まあ、全裸のまま張り付いている。


「私は朝の御奉仕を任されまして。心置きなく。まあ、ジャンケンで勝ったとも言います」


「マイアに……昨日の夕飯、美味しかったと伝えておいてくれ。なんていうか、流れで一気にかき込んでしまった気がする」


「大丈夫ですよ? 喜んでましたから。こんなに大量に食べてくださって、って」


 そんなに食べたか?


「最初、美味しいも何も無かったので、ちょっとドキドキしてましたけど……黙々と……用意された大量の食事を、超速で全量食べるっていうのも、もの凄いアピールになるのですね」


 正直、あまり覚えていない。なんていうか、温泉の後はもう、食欲と性欲で意識が埋め尽くされていた……というか。まあ、散々大暴れした後は、睡眠欲で……。


「多めに作ってしまったらしいですよ。マイアも。張り切りすぎて」


 人間の三大欲求を大いに満たした……ってことか。そりゃ、大いなる意志に取り込まれずに済むよな。


(そうだな……。というか。うん。こんなに直接的に人種の性行為に密着したのは初めてだったのでドキドキした)


 あ。そうだよね。いるよね。


 ……密着するな。


(しょうがない……サノブの精神、魂の欠けた……と思われる部分を癒やす為に、それを修復しようと、龍脈のエネルギーを多少でも増加できないかと、変換して送り込んでいた所に、唐突にスイッチが入って、逃げ出す事が出来なかった)


 え? そうなの?


(どちらかと言うと、被害者だ)


(そ、それは……ごめん……)


(……結構恥ずかしいな。万里も大人になったらああいうことをなんていうか、と思うと、恥ずかしい。これが恥ずかしい、か)


 俺らのアレで「恥ずかしい」を学習して欲しくなかったよ……。


 まあ、スッキリしたのは確かだ。文字通り。


(それがアレだな、オヤジギャグとかそういう、ダジャレというか)


 それほどでも無いよ……。


(サノブが万里の父親の様な、いい歳のオッサンというのは良く判っている)


 なんか……悔しいな。


(諦めろ)


「はあ。よし。切り替えよう。アムネア魔導帝国の首都、帝都かな。に、クアトロ真正帝国の一部隊が急襲した」


「急襲……ですか」


 森下。うん、だから、いじるのはちょっと停止で。


「一部隊ですか? えっと、クアトロ真正帝国は大国で、アムネア帝国にちょっかいを出して来ている……んでしたっけ?」


「クアトロはアムネアを元々は自分の国の属国だと主張してるみたいだけどな。歴史的にはハッキリと判らないレベルの昔話らしい。行商人からの情報だと、現実問題として、国としての規模は確実にクアトロが数段上……って感じだったな」


「はい。捕虜尋問の際も、アムネアの指揮官の人がイヤイヤながら認めていましたしね……」


「で、そんな大国の……多分、かなり実力の高い一部隊が帝都を急襲した。まあ、前情報として、アムネアはハーシャリス閥軍の未帰還、連絡断の後、親衛隊だかが、深淵の森で消息不明になったことで、帝都の守りが大幅に戦力ダウンしていた様だ」


「……というか、そんな国力差のある大国が……一部隊? 程度の人数で敵国の首都を急襲、奇襲で要人暗殺の上、支配下交渉ですか? なんていうか……理性的な判断が出来ていると思えない蛮族行為ですけど」


「魔族は、こちら側の人族よりも単独主義というか、能力主義というか、国というまとまった組織で行動する以前に、個人の武、魔力だろうけど、を重んじている気がするな。まあ、蛮族……日本だと戦国時代よりも、貴族豪族が賊の如く土地を切り取り合いしていた時代の狭間というか」


 だからもぞもぞしない。


「プライドの高さもそれに関係しているんでしょうかね……あの人達、こっちの世界の人種? 人間を遺伝子レベルで見下してますよね」


「アレな。正直、ちょっと……病的な……いや、呪い的なモノを感じたんだよな」


「どういうことです?」


「俺は今回、行商人として帝都に侵入した。で、行商人ネットワークに紛れ込んで情報収集してたんだけど。行商人、商人としてモノを考えるのは「儲ける」事だ。ハッキリと聞いたわけじゃ無いが、魔族の行商人に人種=奴隷やこっち側の人間に物を売ろう、儲けよう……なんていう感覚が見当たらなかった」


「商人なのに、こちら側の世界を市場として考えていないということでしょうか?」


 ぺろぺろもしない。


(森下の思考と身体の動きが完全に分割されている! なんというマルチタスク!)


(そういう部分で驚愕しない)


「ああ。おかしく無いか? 支配階層や軍人が市場なんていう考え方を持たないことは、珍しいことじゃない。だが、魔族世界で商人はイロイロと虐げられている地位にいるにも関わらず、自分たちの本質を貫く様な「心意気」が一切感じられなかった」


「確かに……虐げられているのであれば、優秀な者であればあるほど、その地位に相応しい独自の真理に気がつくはずです。商人であれば利益の追求。そこから生まれる幸福感覚の相互交換。途中経過では「儲かればなんでも良い」ということになると思うんですが」


「奴隷制度、奴隷に対してその辺が欠けているのは仕方がないけれど、こちら側にそれなりに大きな市場が展開されているのは理解出来ているだろうに、それが無い。何でだ?」


 だから、もぞもぞと弄り続けるのを止めなさいって。

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