080:南無
「……な、何を……した?」
お。文雄も気付いたようだ。うん。まあそりゃそうか。リーマン背広着用とはいえ、薄着だしね。
実は。瞬間移動っていう未知の能力を確認してから何度も……「水生成」で発生させた水をこの部屋の隅の方に撒き続けていた。凄く豪華な毛足の長い絨毯のせいで気付かなかっただろうけど。
攻撃魔術といえばこれ! って感じの、魔術「火球」も「風刃」も俺の意志で動かすことができる。
それこそ、飛んで行くスピードは遅いが、炸裂、爆発で威力の高い「火球」、飛んで行くスピードはスゴイし切断力もある「風刃」。
このどちらも凄く判りやすい術だが、発生させて、敵の元へ飛ばす……という部分も術の一部として「当たり前」の様に操作できる。
まあ、普通は「火球」ドーン、「風刃」シュバッって感じで、生成後、即放つもの……と思っていた。
でも。実際にはそれを、すぐに相手に向けて放つのも、そこそこ貯めて放つのも俺の命令次第なのだ。
ただ、あまり長い時間……三十秒くらいすると消滅してしまうが。
魔術操作の技量が高ければ高いほど、長い時間、発生させた魔術を自分の周りに「留めて置く」事が可能なのだそうだ。
それが普通の使い方だと思い込んでいたら。
実は相手の只中にいきなり発生させることも可能だった。範囲内であれば、オークの身体目掛けて魔術を発動すると、その場で術が発動する。
……恥ずかしながら、アニメなどで見て、記憶にある攻撃魔法は、全て自分の周りに術を発生させて、敵に飛ばす、投げつけるというモノだったからね。
なので、そう思い込んでいたのだが、素早く動く魔物には避けられてしまうことも多かった。
そこでやっと、直接、敵に向かって魔術を放つ方法に気がついたのだ。
こっちが普通というか、超便利というか、当たり前なんじゃね? っていうね。
で。
水魔術の「水生成」で、生み出せる水は、俺の意志で自由に温度を変更できる。これもしばらくしてから気がついた。敵に熱いお湯をかけたらどうなるかな? と思ったのがキッカケだ。
そのおかげでじゃないが……廃工場の後始末の際にはとんでもない温度の「火球」を使用している。
水と火で使用している術は違えど、温度調節の方法は同じなのだ。
幾ら【結界】「正式」纏いで覆った密閉空間とはいえ、普通の火力では鉄骨まで燃え尽きることはあり得ない。まあ、その辺の温度も「太陽」とか「プロミネンス」とかイメージすればいいだけなので簡単なんだけど。
ということで。
さっきから極限まで「ゆっくり」と冷やした水を部屋の周囲に生成し続けている。
これは過冷却水と言ったヤツで「衝撃」が加わると氷に変化する。
この過冷却水を生成し、直接絨毯に生成するのでは無くて、ホンのちょっと上に発生させる。
当然、その水は下に落ちる。落ちた瞬間にその衝撃で水は氷に変わる。
「足元が……」
そう。なので、気がついた時にはもう遅い。壁際から発生した氷は今や、部屋全体に広がりつつあった。
文雄の最大の特徴でもある、「瞬間移動な能力」が厄介なのは、ヤツの攻撃の元になっている武道による、素早さの組み合わせだ。二人の裸女を操ってただけあって、本人の素早さも相当だと思う。
フェイント有りで仕掛けられるとそれにこちらも反応してしまう。その瞬間に「瞬間移動」を混ぜられるとどうしても後手に回されて、受身になるのだ。
「こ、これも貴様の……能力なのか」
と言いつつ、仕掛けてくる動きは既にかなり鈍くなっている。というか、足元が凍ってきて、踏み込みや移動に躊躇するようになっているのだろう。力を込めて踏み込めば床の氷くらい踏み割ることが出来るだろが……それではスピードを殺すことになる。
そして……あまり動きの無い中で発生させる「瞬間移動」は……。
ゲファッ!
六角棒が肩に食い込んで、文雄はきりもみ回転するかのように周りながら壁に飛ばされた。
気力による防御だろう。肩を突き抜けたり、衝撃で破裂したりすることは無かった。手応え的には分厚い粘土を突いた感じか。
発動のタイミングさえ判れば、次の瞬間近距離に出現する文雄を捉えるのはわけない。本当なら、その瞬時に「ブロック」でガードできればいいのだが、さすがにそれは間に合わなかった。
なので、カウンターで合わせる。
瞬間移動後の物理法則がどうなっているのか判らないが、文雄は中々の速さで攻撃を仕掛けてくる。その分、丸々六角棒によって反撃されてしまう。
ゲブウ……
血を吐き出す。腹にも数発……いいのが入っている。文雄の気力がどれほどのモノか判らないが、あの反動具合を見ていると、それなりの鈍器で殴られているのと変わらないだろう。
だが、これだけ殴っても戦闘を継続してるワケで。つまりはその程度のダメージだということだ。厄介だな……。
と。思っていたのだが。
しばらくすると、明確に……さらに文雄の運動量が落ちた。スタミナ……切れ……か。さらに気温も下がってるしな。
あれだ、若い頃はブイブイ言わせていたんだろうけど、年齢的に前戦は離れていたんだろう。
そりゃね。組長が最前線で戦ってる組織なんて大して怖くないしな。
体型的に運動不足には見えないが、訓練を欠かしてしまうと継戦能力は失われていく。……と、最近読んでいる格闘技の教本に書いてあった。
残念。
ここまで疲弊してしまうと「瞬間移動」の能力も十二分に使えない様だ。
「た、頼む、殺さないでく」
ガス
ここでヒーローなら「お前はそう言った人たちを許したのか?」とか言いそうだけど、まあ、言わない。面倒だし。
ゴス
「や、や、やめ……」
ドゴッ!
「気力」尽き果て……ということなのだろう。
心臓目掛けて放った六角棒は僅かにズレたが……胸の中心辺りを貫いた。
ゆっくりと跪く文雄。目から力が失われていく。
六角棒を抜いた。
そのまま冷たい床に倒れ込む文雄。
(んーこれで終わりかな……?)
一応手を合わせておいた。
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