068:プロ達の狼狽2
「対象は毎日朝、仕事に向かい、いつも通り1800時には帰宅。帰宅以降は家から外に出ていません。何か特別な外部連絡手段があるとも思えませんし、ネット関係も……大丈夫ですよね?」
「ああ。ファーターたちも問題なし、特別なアクセスは一切無しと太鼓判を押している」
「本日も……いつも通りの行動でした。本当に本当に普通に見えました。今思えば……それこそが異常だったのかもしれませんが」
異常事態に「ヤモリ」の隊長、八代が饒舌だ。彼は本来無口な仕事人なのに。
対象の居宅に、牧野興産の手の者が仕掛けたのは深夜0100時頃。十名近いチンピラが襲撃開始という連絡を受けた。
ちなみに「ヤモリ」は村野氏を張り込む牧野興産のチンピラ共の、さらにその外側から監視している。その距離だと即動しても対象を守り切れるモノでは無いが、依頼を受けていない以上、仕方ない。
再三の忠告にも関わらず、本人に護衛は断られてしまった。そのため普段ならあり得ない超遠距離からの監視作業だ。いくら彼らでも厳しかったか……と思ったのだが。
「襲撃者は十分程度で諦めて、車に戻りました。なぜ、諦めたのかは不明ですが……物理的に中に入れなかった、破壊できなかったくさいです」
どういうことだ? なぜ中に入れなかった? 要塞レベルの門や壁なのか?
「さらに襲撃後に何かあったのは確実です。これは……私の勘ですが……彼は既に自宅には居ないと思われます。何となくの違和感でしかないのですが」
おう……八代も勘……か。そう。村野氏に関わって行動を開始すると、勘で動かなければ「間に合わない」感覚が付きまとうのだ。
「そうか。なら……彼は彼で動いたのかもしれないな。どうやって「ヤモリ」を、いや「八代」を出し抜いたのかは判らないけど」
「はい。重ね重ね申し訳ありません」
「……そういえば、牧野興産はチンピラの監視用に高層マンションの一室を押さえたんだよな?」
「ええ。多分、連絡用の拠点だと思うのですが」
「そこ……さ、調べられる?」
「すぐに調べさせます」
……無いとは思うが。
「ボス、やられました……こちらのミスです」
十分くらい経過して、八代から連絡が入った。
「連絡用の拠点だと思われた部屋の隣の部屋もヤツラに押さえられていた様です」
「で。その隣の部屋なんですが……多分、砂がいた……様です」
「砂か。確か「アルサムの手」が雇われてたな……というか、いた様っていうのは?」
「最初に見張っていた部屋に踏み込んだんですが、もぬけの殻で。ベランダから隣室に移動していた様で……」
「様で?」
「残されていたのは少女二人の斬り刻まれた遺体と……大量の血痕……です」
血痕?
「ここにいたのが砂だと思えるのは、残された得物です。イロイロカスタマイズされてますが、MK15ですね。トライポッドで固定されている所を見ると、最終的にこれで村野氏を始末する選択もあった様です」
「ああ……「アルサムの手」の銃だな。正解だろう。で、ヤツは?」
「見あたりません……が。代わりにあるのが……」
「血痕か」
「はい。これまで多くの血痕を見てきましたが……さすがにこれは……」
「動画繋げるか?」
送られてきたのは……最初に、ちらっと全裸で斬り刻まれた少女たちの姿。こちらはイロイロとヒドイが、すぐに死体と判る。仕事の前に猟奇的に女を犯すって話は本当だったのか……。
次に映ったのが、血痕……しかも大量の血痕だ。これは……。
「確かに多いな」
「ええ。確実に一人分の血液量ではない……様な気がするのと……ちょっと触ってみたんですが……普通よりも濃いような」
「それがどんな意味を持ってるのかは分からない……な」
「こっちで殺されてる二人の出血量、血痕なんて目じゃないですからね……これはなんですかね?」
「判らん。とりあえず、巻き込まれない様に速やかに撤退してくれ」
「対象の監視、護衛はどうしますか? 継続です?」
この状況に村野氏が絡んでいるかどうか……は判らない。が。何かが動き始めていることだけは、確かだろう。
「八代、家に村野氏はもういないんだな?」
「勘ですよ?」
「「ヤモリ」の長の勘だぞ? 信じよう。とりあえず……牧野興産の監視……の部隊に合流してくれるか?」
「了解しました。主力をそちらに切り替えます」
まさか「ヤモリ」が出し抜かれるとは思わなかった……正直、これで村野氏の行方が不明になった。
もしくは。
今夜これ以上何も起こらなければ、彼はずっと自宅で大人しくしていた……ということになる。
なぜチンピラが襲撃を諦めて帰ったか? が謎のままだが。
その直後、村野氏からメッセージが送られてきた。
村野:今から……多分、待機所みたいな所へ向かいます。場所はGPS参照で。もしも中に潜入している人がいるのなら、撤退させてください。
なんだ? 待機所……GPSの場所から……廃工場か。やつらがねぐらにしてるし、今日は実行部隊のほとんどがここに集められて居たはずだ。うちの主力もここに張り込んでいる。三人娘や森下社長に被害が及びそうな場合、根幹から潰す用意をしていた。
確かに何人か草も入り込んでいる。
三沢:了解しました。今から五分いただけないでしょうか?
村野:判りました。この工場跡の他に、牧野興産の主要拠点はいくつありますか?
三沢:そこは完全に前線基地の様に使っていたようですね。兵隊の詰め所です。大した資料、情報も無いでしょう。牧野興産の拠点は他にも幾つかありますが、倉庫が多く……重要なのは本拠地、本社ビルくらいでしょうか。場所はGPSでお送りした通りです。そこからそれほど遠くありません。
村野:ありがとうございます。では、その本拠地からも……いや、本拠地周辺からの撤退をお願いします。こちらが終わったら向かうと思います。
三沢:終わったら……了解しました。そちらも早急に対応致します。とりあえず、工場跡からの撤退完了した様です。申し訳ありません、今から……何を?
村野:内緒です。
内緒じゃねーよ……やろう……何する気だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます