066:隠滅

【闘気】を纏った刃。


 ああ、そうか。完全に死ぬ気か。まあ、うん、ここに居る時点で、黒社会、裏社会で生きて来たのだから、犯罪者なのは間違い無いだろう。何人、何十人の命を奪ってきたに違いない。


 さらに下で倒れてるっぽい気配にも関係しているかもしれない。


 だが。


 そこまで戦う事に己をつぎ込めるのはある意味尊敬できる。ゲーム感覚で魔物と戦い、レベルを上げ、命の心配なく強くなった俺にはここまで出来ないだろうなぁ。


 そもそもの心構えが違う。


 ここで……青ジャージが判りやすく深呼吸をした。ここまで一切、気配を気取られないように、呼吸すら抑えていたのに。既に……もう、最後な事を理解しているのかもしれない。


 息を止めた。來る!


 いや、その瞬間には来ていた。


ガスッ


 スゴイ音と共に……刃先の進む先に、軌道に、「ブロック」「正式」纏いを三つ重ねて置いてあったのを突き抜けて来た。


 俺の首筋に……首は当然、防刃装備を着ているし、身体全体に膜の様に「正式」を纏っている。それすらも……突き抜けた様だ。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。人間の気合、想像力、妄想は……ナニモノをも超えるということなんだろうか。


 汗が滲む。ほんの少し。ほんのちょっと、俺の方の想像力が確固たる意志で構築されていたというだけだ。

 その確固たる意志は……何千何万というグレーウルフやスケルトンを屠り続けて来た「成果」だ。アレは無駄じゃ無い。というか、今後も続けていかなければいけない……と。


【反撃】


 が、そんな彼の一生を賭けた一撃の余韻を味わう瞬間も無く、スキルが発動する。


 ああ無情。


 構えの無い所から繰り出される、上段からの振り下ろし。


 青ジャージの頭が吹き飛ぶ。


 スキル任せの一撃だったからか、威力自体はそれほど強く無かったようだ。首元で六角棒が止まった。


 返り血が吹き飛んでくる前に「ブロック」でガードする。俺の立っている場所の反対側が一瞬で血塗れになる。


ヒッ


 残る二人が息を呑む音が聞こえた。


「お前たちはどこまで知っている?」


 マスクのせいで声がくぐもっている。


「お、お前が……村野……な」


ガズ


「質問してるのはこちらだ」


「あああああー!」


 近くにいた現場指揮官の足先、ブーツに六角棒が食い込む。というか、突き抜けた。千切れ飛ぶ。


「どこまで知っている?」


「おれ、おれた、ちは、坊ちゃんを再起不能にしたヤツをいた、いため、つけろ、と」


 まあ、そんなもんだろうなぁ……というか、ヤツラの動機などそんな感じだよな。ただ単に身内がやられたらそれの報復。特に自分の子ども可愛さからの復讐。そこに何か計算や、裏はない。

 

 それまで、こいつらの欲望が、どれほど、多くの家族を壊してきたことか。そんなことは一切顧みず。


 傲慢でくだらない。くだらないからこそ厄介でもある。


ガスッ


「ぐあっ」


 今度は、兄貴の手を、壁に縫い付けた。その勢いで身体も持って行かれている。逆側の手で持ってた拳銃も吹っ飛んだ。

 

 棒を抜く。投げ出された。よろよろと躓くように膝から崩れ落ちる。


 血が噴き出しているが、上手いこと手の平に六角棒大の穴が空いた様だ。


「なに……なにもんだ、あん、た」


「ああああああ!」


パンパンパン!


 現場指揮官が拳銃を乱射した。一発も俺に当たる軌道での発射が……無い。跳弾も無い。


 首に六角棒が当たる。あり得ない角度で首をかしげて、そのまま壁と天井にぶち当たった。


「くそが!」


 そのすきに、兄貴が懐からもう一丁の拳銃を抜き、構え……。


ズパッ!


 頭部が吹き飛んだ。


 階段を降りて、奥の部屋のドアを開ける。案の定……そこには手枷足枷、マスクを付けられた、裸の少女たちが横たわっていた。


 腐りかけたようなマットレス。空気も腐っている。ここで、何が行われていたか、すぐに判る。部屋の隅にシャワ-が付いているが、それもジメジメとした空気に拍車をかけている。


 彼女たちが清潔感の無いスペースに閉じ込められていただけでも胸くそ悪いが、薬か暴力か、両方か……息はしているものの、意識がハッキリしているとは思えない。


(まあ、さっきのマンションよりはマシか……。生きてるしな)

 

 捕らえられていた五人の少女を多少乱暴だが強引に担ぎ、そのまま工場跡から外へ出る。門の前に数台の黒塗りのワゴン車が止めてあったのでそれに押し込める。

 命に別状は無い様なので、しばらくはこのままででも大丈夫だろう。


 工場跡に戻り、中に向かって「火球」を撃ち出す。30……ほどでいいだろう。さっきの特別製のと同じタイプだ。


 そのまま。


【結界】はそのままで外に出る。「火球」を着弾させた。


ゴッ!


 瞬間、【結界】を黒くし、超高温で燃えた、まばゆい光を周囲に漏れないようにする。高温を冷やすために、冷却系……氷の術とか使えればいいのだが、まだ使えない。


 まあ、魔術で発生した火は、俺が消そうと思えばあっという間に消滅する。さらに俺にはダメージが発生しないし、【結界】で囲むと完全に遮断される。熱も音も伝わって来ない。


 さっき使ったので判る様に、温度から範囲、効果時間などを自分の思い通りにできるのが良い所だ。一生懸命練習したかいあったな。


 しばらく……三十秒くらいは待っただろうか……【結界】を解除する。


 そこには……駐車場のような更地が広がっていた。ついさっきまで工場が立っていたとは思えない。

 工場の機材、備品、そもそも建造物全てが消滅している。


(これでなんていうか、うん、大丈夫だろ)


 非常に清々しい。地下があったらどうなるかな? と思っていたのだが、今回の工場跡に地下室は無かった様だ。


 この工場の周辺は同じ様な工場跡や、倉庫の様で、チンピラのやりたい放題だったみたいだ。人も通らないので、いきなり建物が無くなっても気付いて騒ぐ人もいない。


 まあ、実験は成功かな。 


 持ち主となる牧野興産も、今日で無くなっちゃうことだし……ってそうなると、しばらく放置される可能性があるな。

 後で通報だけはしておこうか……車の中に女の子いますよって。





 






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