023:レベル差

グォン……。


 空気が違う、音が違う。そして……何よりも圧力が根本的に違う。


 何となくで配置した、配置してしまった、スケルトンナイトは根本的に格が違った。


 ヤツの振り下ろしてくる剣速が、ソードスケルトンとは比べ物にならない。死ぬ。絶対に死ぬ。当たったら死ぬ。正直……これは格が違う。


 俺にはまだ戦うための心構えに加えて、技術というか、奥行きがなさ過ぎる。その上チートらしいチートは「切り裂きの剣」のみだ。あ。もうひとつあるか。


「シロ、撤収」

(はい、なのよぅ)


 ふう……。ってこれだ。どこのお決まりか良く判らないが、普通ボス部屋は入るとドアが閉まり、外に出れない、逃げられなくなるそうだ。


が。


 俺の場合、迷宮創造主マスターなので、「撤収」でシロの元へ戻れてしまう。


 これはずるいよな。


 マイナスな部分は……多分、このエリアをクリアするときに手に入るボーナスポイントを得られないことくらいだと思う。


階層ボーナス:迷路化レベル1

階層ボーナス:部屋⇔通路レベル1

階層ボーナス:迷宮構造構築

階層ボーナス:階層ボス配置

階層ボーナス:コンセプトレベル3

階層ボーナス:芸術レベル1


 これら階層ボーナスが、ゲット出来ないだけで、そこまでに稼いだ経験値は失われていない気がする。


 思うのだが、迷宮システムは多分現実なのだろう。実際に自分が魔物のフィギュアを置けば、それがリアルになる。自由に動きまわるわけじゃなく、一定エリアを徘徊するだけだが、息づかいが聞こえてくるし、臭いし、血も流れる。

 ただ、俺だけが、リアルじゃ無い。命がけじゃないのだ。まるでゲームの様だ。そもそもロゴブロックでダンジョンを構築するんだからオモチャ、遊びの一種として捉えても間違いじゃ無いのだろうか?


 無茶すれば死ぬのにな。


 とはいえ、ゲームの様に楽しめてしまうのは超レアなチート剣のせいか。そうか。


 この即時撤退のシステム、何が良いって、ギリギリまで踏み込める点だ。ダメージを受けても意識が有る限り、即戻れるし、さらに同時に傷や体力も回復する。腕を落とされたり、身体が部分的に欠損した場合も回復するらしい。正直、「まだ」そこまでは踏み込めていない。が。


 これはつまり、自分の限界を超えた作戦を試行し、ヤバかったら戻るを繰り返せるってことだ。


 人間、限界訓練が繰り返し可能なら、絶対にブレイクスルーは訪れる。

 

 何よりも安全安心状態で、レベル上げが出来るのだ。


 それこそ、さっきのスケルトンナイトだって、ギリギリまで試してみて、ダメだったから逃げてきた。あんな感じで試行錯誤できるのはひとえにこのシステムのおかげだ。


「とりあえず、スケルトンナイトは今はまだ無理だな……修正しよう」


 ということでボスをグレーウルフリーダーに変更する。少なくともスケルトンナイトよりも格下に思えたからだ。


 あ。そういえば。


「シロ、モンスターって、一度戦えば……リストに表示されるんだっけ?」

「そうなのよぅ。レベルも表示されるのよう」

「撤退しても……お。表示されてる。スゲぇ」


 スケルトンナイトはレベル12だった。おうふ。こちらはレベル2であっちは12。そりゃ格上すぎるってことなんだろう。


 新ボスに設定したグレーウルフリーダーはレベル9。グレーウルフを一回り大きくし、犬歯が大きくなった程度の違いしか無かった。スピードもほぼ変わらない。何度かボスとして倒し、余裕を感じてきたため、配下を付けることにしたのだ。


 が、部下であるグレーウルフを伴うとトンデモナイ難易度になることが分かった。


階層ボーナス:迷路化レベル1

階層ボーナス:部屋⇔通路レベル1

階層ボーナス:迷宮構造構築

階層ボーナス:階層ボス配置

階層ボーナス:コンセプトレベル2

階層ボーナス:芸術レベル1


 コンセプトレベルが1になっていない事に注目すべきだった。


(というか、絶賛困難中だけど)


 ウルフ=狼が群れで行動する動物ということは知っていたが、ここまでとは思わなかった。


(右、いや、左……)


 複数の敵が連動することによって、動きが見きれない。避ける距離が長くなり、反撃のタイミングが掴めない。

 複数の敵に囲まれても、どの敵から襲いかかってくるのか、優先順位を付けることができれば、対応するのは難しくない。


(でもなー距離を取る以外で対応するのは難しいよな……)


 敵はボスであるグレーウルフリーダーとグレーウルフが二匹。ちなみに、グレーウルフリーダー単体の場合はなんなく倒すことが可能だった。


(ちっ。危険を承知で踏み込むしか無いか……)


 とりあえず、右のグレーウルフに踏み込んだ。


ビキッ


 剣の柄の部分でグレーウルフリーダーの牙を弾く。が。


(ちっ)


 血が噴き出した。見れば、右手の小指の根元……が抉られ、喰い千切られている。


(まあでも、危険を冒したかいがあったか)


 バックラーで弾き飛ばしたグレーウルフが壁に当たってピクピクと痙攣し、息絶えた様だ。


(後は……まずは……)


 グレーウルフリーダーは配下をけしかけて、こちらに隙を生み出させて、そこに突っ込んでくる。ということで。


 切り裂きの剣がグレーウルフリーダーの首から胴を斬り裂いた。手首を返してトドメを刺す。


 一匹残ったグレーウルフは当然、敵ではない。


(いてて……)

(大丈夫? なのよぅ。ちょっと強引だったのよぅ)

(技がないんだから仕方ないだろ。シロ、撤収)

(はいなのよう)


 

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