153.強さも正しさも、在るだけで傷付ける。
変身する姿について、
「私は傲慢だったよ」
壁に備えられたスイッチを左手で押しながら、右手の指を鳴らした。蛍光灯に通った電気に部屋の埃っぽさが露わになって、中の〝患者〟の魔法を解かれた瓶は割れる。破片が床に散らかる中、変身の魔法をかける直前と変わらない制服姿の
帯刀へ歩き出す。
「いつからだったか、お前に神聖視されてるのが居心地悪かった。確かに私は、お前に心配をかけまいとそれは気丈な振りをして生きて来たけれど、負担になりたくなかっただけで、持ち上げられたかった訳じゃない。でもこの温度差の拭い方も分からなくて、ずっと片付けるのを先延ばしにしてた。この
「……って言葉を考える時間を稼ぐ為に、さっきは私をここに置いて行ったの?」
「そうだよ。何の言い訳も用意出来てないままにお前と話すのは、流石に怖い」
どうかしてると思った。
情で善悪を歪める事は許さない。正しさとは、どんな悲劇の前でも屈してはいけない。そう一週間前全身全霊を懸けて貫いて、やっと意味を見出せたばかりの私の信念が、もうぐらぐらと揺れている。帯刀が願った復讐という暗い望みを果たさなかった私とは、確かに自分を正しいと信じているのに、それでも帯刀と話すが怖いのだ。傷付けてしまうのが、悲しませてしまうのが、嫌われてしまうのが怖いから。間違っていると分かっているのに、どうしても帯刀に幸福を用意したいと願ってしまう。
やっと分かった。両親に、悪魔
確かにこいつとは理屈じゃない。是非も善悪もどうでもいい。頭の中には、手に入るかも分からないくせに描いた幸福ばかり。
だから私は、告げねばならない。
「だから私達はお別れしよう。出会った以上他人には戻れないけれど、知り合い程度に互いの扱いを落とすんだ。私は、好きな人の為に道を踏み外す事を、美しいとも正しいとも思わないし肯定もしたくない。最高に人間らしいとは思うけれど、だからって仕方無いなんて言って許さない。私達が生きてるのは、ハッピーエンドが約束されたラブストーリーじゃなくて現実だ。甘い言葉にかまけて立ち向かう事から逃げ出す事を、私は生涯認めない。誰かの為と言って誰かを傷付ける事を、
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