147.切り札
「あたしと千歳が芋虫の悪魔の餌になる予定やったからあの人とは、ほんまに魔法の天才やった。無いような思い出掘り返す
既視感のある裁の凪いだ様に、不快感を覚えた。
私だ。私が隠し事を明かす時、つい繕う静けさそのまま。
裁は、降り
「でもあの人は、自分で芋虫の悪魔を殺す気やったんよ。裁家の没落も、物心付いて間も無いあたしやなくて兄さんが願った事やった。それが叶いそうにないからあたしに護身用を兼ねて幾つかの魔術を教えて、芋虫の悪魔を殺させたんは偶然。そうなったんも芋虫の悪魔が、兄さんの思惑に気付いて両親諸共殺したから。事故みたいなもんよ。まだちっさかったあたしが、腐っても悪魔である芋虫を殺せたんも」
「……ずっと疑問だったんだ。裁家没落後、誰がまだ幼かったお前と妹さんの見てたんだって。妹さんに至っては一般家庭に収まってる。養子の手配をした人物はお前ぐらいしかいないだろうとは思っていたが、没落当時でもまだ幼かったお前が、いつどうやってやったんだって」
「今は目星付いてるやろうに兄さんよ。魔法使いになりたない子供達の面倒見る、お人好しの魔法使いがやってるボランティアみたいなんがあって、兄さんがそこにあたしら
てか、それがほんまに訊きたい事?
裁は言いながら、底の見えない横目で私を射る。
感情の起伏が分かりやすい振る舞いをずっと見せられて来た手前、突然纏われた得体の知れない静けさについ
分からない。裁が何を言おうとしているのか。
分からなくて、気味が悪い。
「まあせやから、あんたが思ってるような、あたしに芋虫殺しを押し付けるような悪い人やないで兄さんは」
裁は、手持ち無沙汰となった左手を下ろした。
「気味が悪い奴やであんた」
肩からぶら下がるように垂れる左腕を揺らし、裁は遠くの正面を見る。
「あんたは〝館〟での態度は芝居や言うた。あたしもそうなんやろうなて納得してた。あんたは人から離れたぐらいのお人好し。自分を守る事を放棄した、道徳的には完璧で、生物としては欠落してる故に理解されへん哀れな聖女。そう思てたけど、あんだけ好き放題されとった劇場支配人の悪魔に、一回だけブチ切れた瞬間を見て
裁は遠くを見たまま、左手をゆっくりと柄へ戻した。
「〝魔の八丁荒らし〟たる由縁の二つ目の魔法。それは生憎、『
裁は鋭く私に向き直り、その右半身に隠れていた刃を露わにする。
突如『
「芋虫の二つ目の魔法は模倣。指定した相手が今あたしに見せてる、あらゆる技を完璧に真似る。劇場支配人の悪魔戦で使わんかったんは、あいつの魔法があたしと同じ
単一指定した魔術を完成させる。聞いただけなら使い道も分からない『
完成させるとは言い換えれば、自分の腕で引き出せる限界以上、つまりその魔術が持つ性能を、否応無しに最大値まで引き
『餓牙獄送』とは対象とした者の持つ、あらゆる悪魔を起源としたものを食らい尽くし破壊する魔術。既に逸脱したこの攻撃性を完成させるなら、他に何を壊そうと言うのか。
人間だ。悪魔殺しとして既に出来上がっている『餓牙獄送』が、頑なにその牙で砕くのを避けている唯一の相手。魔法使いも魔術師も等しく無力に帰しながら、決してその命は取りたがらない私の性分を示したような無二の柔さ。
当たり前だ。この魔術を作ったのは私なんだから。裁はそれを取り除いたのだ。人間の前では『餓牙獄送』とは、ただの気味悪い刀へ落ちてしまうから。悪魔喰らいという半端な私にも、傷を負わせて失血死を誘う事は出来ても、斬撃そのものが決定打になれはしないから。外そうが当てようが、勝とうが負けようが術者は死ぬまで戦わされる、全魔力を注ぎ込んだ決着の一刀とする為に。
私の信念を切り落とされ、己が理想を示す刃となったそれを、裁は正中線に構えながら魔術師然と命名する。
「『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます