141.あるお人好しの十八番。
裁はその言葉を待っていたように、挑発的に笑った。
「いいや?」
乗って来るのは分かってる。
劇場支配人の悪魔戦でもまずは分析と言っていたように、こいつのスタイルは後の先だ。どこまで行っても事前準備が絶対である
私も笑えて来て、微かに頬が緩んだ。何で鉄村でも
「そもそも『一つ頭のケルベロス』とは、父が悪魔
「せやからさっき粉々にしたった時は、直接
「ああ。だから『一つ頭のケルベロス』も、もっと攻撃的な名前であるべきだ。ただでさえ使用者が悪魔喰らいっていうとんでもない膂力で振るわれるのに、こんな首が欠けてる事しか分からない名じゃ不気味さしか伝わらない。それでもこんな名が通っているきっかけは阿部さんで、父は結婚前の母を連れて単独の魔術師として日銭を稼いでいた頃、そもそも自分の魔術に名前を付けていなかったんだよ。警戒を促さなきゃいけない、仲間がいなかったんだから。私より〝患者〟の症状のコントロールも下手だった父は時折犬になっちまう事があって、阿部さんは父のその姿から、冗談半分に言ったんだ。まるで、頭が一つしか無いケルベロスだって。父の、たった一人で魔法使いを殺しては街を守り続ける強さへの畏怖も込められていたそのジョークは魔術師間に広がって、まだ街にやって来て間も無かった父そのものの渾名となった。やがて『一つ頭のケルベロス』とはまだ名付けが済んでいなかった、父の持つ魔術群の総称へと移る。その代表が、お前に折られたあの魔術刀だ。今は都市伝説のようにこの街を独り歩きしているこの名とは正確には、特定の誰かを指したものじゃない。不確定な存在が持つ絶対的な強さへの、敬称であり蔑称なんだよ。だが私は、不倶戴天の悪魔なんか恐れちゃいない。悪魔
叩き付けるようなビビットオレンジの血の豪雨の中、右腕を突き出した。親指を足元へ向けるように手の平を倒す。
そいつは実に伝統的かつ形式的で、まさに魔術師が好む下らない
如何なる理由があろうとも魔法使いに放つ直前まで、魔術の開示を禁じる。
魔術を開示する際はその名を呼んで周囲への警戒を促し、眼前の魔法使いを必ず殺すと誓え。
悠長な事だ。笑みに辟易が混ざる。
笑みを消し、空の右手を見据えて告げる。最初で最後になるかもしれない、そいつの名を。
「『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます