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131.天喰塁
空を覆うアスファルトの棺の縁で変わらず街を囲うように垂れ下がる、御三家の家紋が入った流れ旗を見上げる。
そう言えば鉄村の奴、この流れ旗をした隠匿の魔術は『暴君の庭』の対象に入れていなかったな。
「不俱戴天の悪魔」
風に靡く流れ旗の群れを、ぼんやり眺めながら切り出した。迫られている訳でも無いのに何だか珍しく、自分の話がしたくなって。
「名前の通り、どうしても共にこの世にいる事が耐えられない、到底生かしておけないと憎む相手を苦しめる為の魔法を持つ悪魔だったんだ。碌に記録の残っていない祖父が
後ろで何かが大きく崩れる音がした。
肩越しに横顔を向けた頃にはもう止んでいて、私の周りには、サークル状にずらりと騎士が立っている。どれも鞘に手をやったまま、抜いた剣の先をこちらへ向けていた。一切の露出が無い厳めしい兜の奥へ目をやるが、眼球の動きが読めない。……いや、
肩を落として嘆息した。
「……これで決着にしてもいい流れだったんじゃないか。お互いもうクタクタじゃないか」
「アホかと思えば
背を向けた遥か向こうから、裁の刺々しい声が飛んで来る。
「あたしは悪魔の
背を向けたままつい苦笑した。
「諦めてくれると思ったんだがな」
「あんたやったらそうかもな。
裁は顔を見なくても腹の底から唾棄していると分かる声で返すと、もう無駄話には付き合わないと言うように一拍置く。
「腹立つ瓶は無くなった。それでもあたしの
「何で鉄村の奴は付き合いの長い私を名前じゃなくて、あいつとかこいつとかお前とか、頑なに誰か分かり辛い呼び方をするんだと思う? 今日まで私経由ぐらいでしか接点の無かったお前のゴーレムは、裁だの裁ちゃんって、その名に触れる形で呼んでるのに。まるで本当は私の名前なんか、一文字だって知らないみたいに」
余りに前触れの無い奇妙な問いに、裁は強めたばかりの警戒を揺さぶられ沈黙した。
横たわったばかりのその静寂を、引き伸ばすように畳みかける。
「今日、私を名で呼んでいた奴と出会ったか? 鉄村の親父さんは裏切り者、
裁は息を呑んだ。
だがその剣筋は精彩を欠いた。裁の動揺を露わにするように、僅かながらも確かに出遅れる。
だからクタクタじゃないかって言ったじゃないか。
肩を竦めたくなるのを堪えて苦笑し、告げる。
「『天をも喰らう
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