119.まだもう少し踊ろうぜ。
「何?」
「今朝〝館〟で腰を抱かれた。〝患者〟の瓶が収められてる部屋で」
至極真剣に聞いていた裁は、それはもう胡散臭そうに顔を歪めるとじっと睨んで来た。
「……朝から何やってんのよあんたら。あない暗いとこで」
「馬鹿何勘違いしてんだお前だって隠れて見てたんだろ〝館〟でェ! つか七ヶ月もどこにいたんだよ私毎日通ってたのに!」
「まず吸血鬼の力で煙になって侵入して、〝患者〟の部屋に紛れ込んだらキャビネットやシャンデリアに積もった埃に混じってじっとしてた」
「忍耐力とんでもねえな!?」
「あと、あんたが通っとった部屋とは別室よ。音であんたがよう来てたんは知ってたから、もし見つかったら難儀や思て
つい怒りが滲む。
「……あいつどこまで私達を振り回せば」
「で、心当たりは?」
「あいつはあるキャビネットの前にいて、その棚の一つをじっと眺めてたんだ。それは
裁は怪訝そうに眉を曲げる。
「……あんたが
「魔術もかけてるんだ。私がこうやって、
「あった。最初の斬撃は駅の高架線を潰す程度やったけど、その後ピエロに攫われてからの斬撃は駅を周辺施設ごと壊しとった。威力自体は徐々に上げてるように見えたけど、そもそも余力を感じて全力には見えへんかったで」
堪らず渋面を晒した。
「……つまり腐肉に乗ってる魅了の魔法を躱しても、いざって時は服従の魔法で抑え込まれるって訳か」
劣勢を押し返そうと踠いていたゴーレム達が、地中から
ぐらぐら揺れるビルの中、頬を伝った汗を滴らせる裁も肩を竦めた。
「文字通り、絶体絶命ってやつやな。あたしの
ゴーレムを蹴散らした腐肉の
私も参ってしまって、その切っ先を眺めながら尋ねた。
「……未だ大事に取ってる、〝魔の八丁荒らし〟の由縁たる二つ目の魔法は効きそうか?」
裁は愚問でも投げられたような顔になる。
「効くんやったら
「そりゃそうだ。そう言えば、サーチライトとコンフェッティは何か分かったか? ずっと気になってるんだけれど何もして来ないから、気味悪くて。瓶の外ではお前のゴーレムを壊して風船みたいにしちまうし……」
裁はぽかんとしたと思うと、すぐ怪訝そうな顔になった。
「……いや、あれは見たまんまよ。パーティなんやから」
意味が分らなくて、一瞬固まった。でもすぐに、理解が怒りで熱くなった血と一緒に頭を満たす。
「飾りかよッ!」
窓をぶち破りカウンターを砕いて迫る腐肉の銛を、立ち上がって拳と尾で殴り飛ばした。
触れた以上腐肉の鈍化が入る。裁は即座に私の腰に左腕を回し、フロアを暴れる瓦礫と共に奥の窓へ走ると蹴破った。砕いたガラスと共に地上三百メートルの空へ飛び出すなり私へ怒鳴る。
「せやから簡単に触んなて!」
「今私がお前の声に気付いて言い返すまで何秒かかってる!」
裁はぽかんとするが、腐肉による鈍化がどれぐらいなのか知ろうとした私の意図を即座に察し表情を引き締めた。
「……三秒! 接触後の鈍化が解けたら言うたるから、分かりやすいように周りよう見とけ!」
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