115.瓶詰根城


 ぽかんとした。ゲームするんだこいつ。まあスマホ持ってるから不自然では無いか。


 言葉の意味を汲み取ろうと訳す。


「えー……。つまり、相手の行動パターンを知る前に怒らせたから、相手がどんな能力を持ってるのか分からないまま全力を出させてしまったと」


 裁はしかめっ面のままだが合っていたようで、訂正は入らない。


「最悪。ジャンルによったら自殺行為よ。序盤ヘッポコで形態変化後にステ爆上がりする系のボスやったら、レベル差だけでゴリ押すんは簡単やない」


「あー死にゲーの初見ボスでやったら死ぬやつだなあ。即死級の技連打して来るから、こっちが幾ら火力持ってようと向こうの攻撃を見切れないと意味無いし」


「それをあんたはやったんやっ!」


「えっ? 青砥部長の手の内が分かったから出て来たんじゃないのかよ?」


「あんたがやられそうになったから出て来たんや! あのキッショい腐った肉の魔法、付与の魔法エンチャントが効かへんねん!」


「はァ先に言えよお前ェ!?」


「せやからあんたがいきなりあのボケに本気出させるから時間無くなったって言うとるやろボケェ!」


 拾ったフリスビー大の瓦礫を投げ付けられた。額にぶち当たり衝撃で仰け反る。


「ぐぇ!」


「イライラするわほんま……! 一応掴んだ情報はあるから、よう聞けアホ!」


 裁は割った窓へ首を伸ばすと、外の状況を把握しようとそちらを睨んだ。


「まず地中から湧いとるあの青い腐肉は、瓶の内側の全ての地中に一枚の絨毯じゅうたんみたいに敷かれてる。つまりあたしの付与の魔法エンチャントに対しめっちゃ邪魔。さっきから地上の瓦礫しか材料に使つこてへんやろ? 地中の土使つこ付与の魔法エンチャントしようとしたら、あれに気付かれて地表に出る前に潰されるんよ。その上難儀なんは、内側でびっしり犇めいとるあの目ん玉。どの方向から仕掛けても蜻蛉とんぼぐらい反応がええ。不意打ち狙うんやったらさっきのあんたの言う通り、地上に下りて建物の影から攻撃するしか無いやろうけど、下りたら地中の腐肉が攻撃して来る。この瓶の中とは、完全にあいつの手中やな。牙城として完成されてる」


 何か動くのが目の端に映って窓を見ると、裁に置き去りにされた腐肉の束が引き返していった。引き返した先には、ビルの残骸に立つ青砥部長がいる。泰然と笑みを浮かべてはいるが、私達を見失ったらしい。サーチライトが切り抜いてコンフェッティが彩る闇の中、狂気的にギラついた目で辺りを見渡している。


 裁の杭で縫い付けられていた蛸の足のような腐肉が、自力で杭を引き抜くと動き出した。私達を探そうとしている。


 途端青砥部長らの周辺のビルが、裁の付与の魔法エンチャントを受けゴーレムになると束を捕まえて行く手を阻む。束とゴーレムによる、怪獣映画のような攻防が始まった。地上に目を凝らすと転がっている瓦礫も大小様々なゴーレムへ姿を変え、続々と束へ向かって行く。


 簡単にやっているように見えるがそもそも付与の魔法エンチャントとは、物体へ命令を下すだけの魔法だ。本来命令対象がその命令をこなす能力を持っていなければ、微動させる程度に終えてしまう。故に付与の魔法いエンチャンターは予め、命令に適した性能を持つゴーレムを用意する。


 裁が現場でいきなりゴーレムを生成し動かせているのは、その微動を何千何万も連続で付与の魔法エンチャントをかける事により繰り返し強引に動かして従わせているだけで、ああも滑らかに見せるとは想像を絶する量の魔力を消費している。


 人間では不可能だ。それを克服する為に吸血鬼となり、魔力の源である生命力を高めて魔力量を増やしているのだろうが、幾ら長命になって跳ね上げようと上限があるのは変わらない。悪魔だって生物なんだから、魔法を使い過ぎれば死ぬ。


 まして自身で、この瓶の中で付与の魔法エンチャントは有効打になれないと話した直後に大規模な付与の魔法エンチャントを使ったという事は、あの攻防は勝敗がかかったものでは無く、時間稼ぎに過ぎないものだと克明に示している。


 それについては見れば分かるだろという事なのか、裁は触れないまま話を進めた。


「……で、いっちゃん難儀なんは、あんたの『一つ頭のケルベロス』が封じられた事。あんた、あの腐肉に捕まったら数秒間ぐらい、やったら反応鈍くなってたん気い付いてる?」



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